逃れることは許さない



「君、俺に囲われてみないかい?」
 突然僕の前に現れた、僕と同じ制服に身を包んだ、黒縁眼鏡をかけた僕より頭一つ背の高い整った顔立ちの男が、僕に向かって言ってきた。
 ……かこう? 何それ?
 僕は突然のその問いに、訳が分からずにその男性を見上げているだけ。
「俺は実は、君に一目惚れしたんだ」
 ぽかんと見上げる僕に、男はそう言いながら口の両端をつり上げて微笑うと、さり気なく僕の手を握ってきた。
 男の浮かべた微笑みを見上げ、僕は何だか嫌な予感がした。
 一見したら蕩けるような微笑みなのだが、眼鏡の奥に光る瞳には、どこか獰猛で容赦のないような、微笑みとは別の色を含んでいるように思えたのだ。
 ……この人、ちょっと危ない人かも?
 僕は人を見る目は確かな方だと思う。それに、僕の直感はよく当たる。
 少し危ないと感じた僕は、その男に握られている手を抜こうとしたのだが、男は僕の手を放してくれず、逆に力を込めた。
「あ、あの、放してくれません?」
「ダメだ」
 …ダメってあんた……。
 男の即答に、僕は呆れ、さり気なくため息をつく。
「俺とつき合え」
「はっ!?」
 …命令かよ!
 僕は男の申し出に対し、激しく心の中で叫ぶと、目を見開き男を見る。
 男の表情は先ほどから少しも変わらず、柔らかく蕩けそうな微笑みを浮かべ、射抜くような視線で僕を見てきていた。
「嫌だ」
「嫌とは言わせないよ?」
 僕の答えに、男はクスリと微笑うと、不意に僕に顔を近づけてきた。
 近づいてくる男の、微かなシトラスのようなコロンの香り。そして目の前まできた顔。
「俺のモノになれ……」
 男は低く囁くと、僕の唇に自分のそれを重ねてきた。
「んっ! んんっ!!」
 不意に塞がれた口に、僕は男を押し退けようとするが、体格が違うためにそれも適わない。
 男は啄むように何度か唇を合わせた後、僕の唇を舐めてから顔を離す。
「やはり、キスの時は眼鏡は邪魔だな」
 男は呟くと、自然な仕草で眼鏡を外し、
「どう? 俺とつき合ってくれる気になったかい?」
 などと訊いてきた。
 眼鏡の奥に隠れていた獰猛な光が僕を見つめてき、僕はほんの少しその瞳に魅入ってしまった。
「だ、だ、誰がつき合うか! 第一僕はホモじゃない!」
「惚れてしまったものは、もう仕方のないことなんだよ」
 僕の発言を聞いているのかいないのか、男は不適に微笑むと僕の頬に軽くキスをしてきた。
「──!!」
 男の不意打ちに僕が過剰な反応を示すと、男は楽しそうに笑って言った。
「覚悟しといて」
 その時僕は悟った──僕はもうこの男に囲われてしまったんだ──。





【END】


この小説は相互記念に空様に捧げます。

眼鏡男子というリクでしたが、こんなモノができあがりました!
眼鏡…でしょうか……(苦笑)

こんなモノでよろしければ是非貰ってやってください!
お気に召しませんでしたら書き直しいたします!