その感情

 え、と思う華倉。
 本当はそんなに邪険には思っていないんだろう、と浅海は言う。
 いつものあの会話も、売り言葉に買い言葉、といったように、浅海には見えるらしい。

 じっと、言い終わって華倉を見る浅海。
 華倉は缶から口を離し、一息吐く。
 まぁな、と暫くしてから言った。
 本当はそんなに嫌いじゃない。

 裕が華倉に惚れてなかったら、普通に友達になっていたかも知れない、と告げて。
 何だそれ、と浅海。

「惚れてちゃいけないのかよ?」

 少し眉をひそめて、浅海が訊く。
 華倉は缶を握り締め、頷いた。

「……だって」

 そこまで聞いて、裕は下唇を噛む。
 話は途中からだが、自分の事だと判ると、出て行きにくかった。
 華倉は何て続けるのか、聞きたいようで聞きたくないような、不思議な気分だった。

 そんな彼の背後から、声が唐突にして。

「坂下くん、何してるんですか?」

 びくーっ、と裕が思い切り飛び上がる。
 声掛けんじゃねぇよ! と魅耶の胸倉を掴む。
 魅耶もその裕の行動に吃驚して、何事かと目を丸くする。

「あ、居たの?」

 その裕の声に気付いて、浅海がこちらに来る。
 華倉もきょとんと二人を見ていた。
 どうやら、話を聞いていた事には、気付かれていないらしい。

 それから紳士服売り場へ行き、無事にお使いを終える。
 時刻は午後4時。

「んじゃ、カラオケ行って帰るか魅耶!」
「オレも行くーっ!!」
「貴方はお呼びじゃないです」

 デパートを出て、そんな会話をしながらカラオケボックスへ向かう。
 何だかんだで4人で3時間歌って。
 ちょっといい休日だったな、と華倉が思っていたのは、内緒だという。

「また4人で出掛けね?」
「良いですね!」
「オレ、華倉とデートしたい」
「言ってろ」