その感情
4
兄弟を見送ると、ふう、と裕が一息吐いた。
「お前スゲェな」
ぽかん、として華倉がそう言う。
え、と裕が吃驚して華倉を見た。
華倉にこんな風に言われた事は、過去に無い。
嬉しくて、裕はばっと顔を背ける。
それから、にっこり笑って華倉に向き直った。
「じゃ、華倉の子供が生まれたらオレ、専属のベビーシッターになるわ」
「やめてくれ」
そういうとこはあっさりしている華倉。
横で魅耶と浅海が苦笑いを浮かべていた。
じゃ行くか、と浅海が向きを変えようとした時、魅耶のケータイが鳴った。
わ、として慌ててケータイを取り出す。
絢華からだった。
「はい、はい……え? はい、分かりました」
話を手短に終え、ケータイを閉じる魅耶。
何? と訊く華倉に、お使いを頼まれたのだと返した。
どうやら、徳永のワイシャツを買わなければならないらしい。
財布の中身を確認する。
ちょっと足りないようで。
「僕、ちょっとお金下ろしてきます」
ATMのあるところまで、一人向かう魅耶。
オレちょっとトイレー、と裕もその場を離れる。
珍しい組み合わせで残ったな、と浅海が華倉に言う。
ああ、と華倉も返し、二人は自販機の場所まで移動した。
着いてすぐ、浅海が小銭を取り出す。
何飲む? と華倉に訊いた。
どうやら、奢ってくれるらしい。
華倉は遠慮なく、コーヒーを注文した。
がごん、と続けざまに落ちてくる缶。
片方を華倉に渡し、浅海は栓を開けた。
「……一つ訊いて良いか?」
ん、とコーヒーの缶に口をつけたまま、華倉は浅海を見る。
でも彼は華倉を見ていなくて。
浅海は床を見つめたまま、言った。
「裕の事、どう思ってる?」
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