その感情

 兄弟を見送ると、ふう、と裕が一息吐いた。

「お前スゲェな」

 ぽかん、として華倉がそう言う。
 え、と裕が吃驚して華倉を見た。
 華倉にこんな風に言われた事は、過去に無い。

 嬉しくて、裕はばっと顔を背ける。
 それから、にっこり笑って華倉に向き直った。

「じゃ、華倉の子供が生まれたらオレ、専属のベビーシッターになるわ」
「やめてくれ」

 そういうとこはあっさりしている華倉。
 横で魅耶と浅海が苦笑いを浮かべていた。
 じゃ行くか、と浅海が向きを変えようとした時、魅耶のケータイが鳴った。

 わ、として慌ててケータイを取り出す。
 絢華からだった。

「はい、はい……え? はい、分かりました」

 話を手短に終え、ケータイを閉じる魅耶。
 何? と訊く華倉に、お使いを頼まれたのだと返した。
 どうやら、徳永のワイシャツを買わなければならないらしい。

 財布の中身を確認する。
 ちょっと足りないようで。

「僕、ちょっとお金下ろしてきます」

 ATMのあるところまで、一人向かう魅耶。
 オレちょっとトイレー、と裕もその場を離れる。
 珍しい組み合わせで残ったな、と浅海が華倉に言う。
 ああ、と華倉も返し、二人は自販機の場所まで移動した。

 着いてすぐ、浅海が小銭を取り出す。
 何飲む? と華倉に訊いた。
 どうやら、奢ってくれるらしい。

 華倉は遠慮なく、コーヒーを注文した。
 がごん、と続けざまに落ちてくる缶。
 片方を華倉に渡し、浅海は栓を開けた。

「……一つ訊いて良いか?」

 ん、とコーヒーの缶に口をつけたまま、華倉は浅海を見る。
 でも彼は華倉を見ていなくて。
 浅海は床を見つめたまま、言った。

「裕の事、どう思ってる?」