その感情
1
「そろそろ夏物買ってこいよ?」と菱人に言われたので。
その日、華倉と魅耶は洋服を買いに出掛けたのですが……。
行きの電車で、まさかの遭遇。
「で、何でお前ら居る訳?」
電車に揺られながら、でも仁王立って華倉が目の前の二人に言う。
やだなぁ、と二人の片方――裕が嬉しそうに笑って返す。
買い物だよ、と裕の隣に居る浅海が答えた。
しかも行き先まで同じだと言う。
返す言葉が無くて、華倉は盛大に溜め息を吐いた。
そんな彼の隣で、魅耶が苦笑いを浮かべている。
仕方無いだろ、とけろんと浅海が言う。
いや仕方無くないよ、華倉はそう返したが、横から裕が「運命だよ」とか言ってきたので、思い切り睨んだ。
まぁまぁ、と魅耶が華倉を宥めようとしているが、華倉の気は収まらない。
折角魅耶とデート、と思っていたのだから、当然といえば当然だが。
ふう、と溜め息を吐く華倉。
別の店に行こうにも、あまり出ないから分からない。
仕方無いのか。
そう自分に言い聞かせ、華倉はまた息を零す。
「つーかお前らいつも一緒じゃねぇか?」
電車が目的の駅に着き、4人は降りる。
そんな時、不意に裕が零した一言。
まぁ、と魅耶が口を開く。
一緒に住んでいるから、当たり前といえば当たり前で。
でも「一緒に住んでいる」事は誰にも言っていない。
勿論、裕達は、華倉と魅耶は別々に住んでいると思っている。
ゆえに、「いつも一緒」が不思議、らしい。
うーん、と説明するとまた五月蝿くなるだろうから、と華倉は敢えて唸るだけ。
アイコンタクトで、魅耶にも「説明するな」と伝えておいた。
そんなこんなで地下道を歩くと、数分で某デパートに着いた。
メンズ服売り場の階を確認し、向かう。
丁度時期だったので、夏物の新作が出回り始めていた。
一旦二組に別れて買い物を始める。
それぞれ買う物が違うからだ。
「それ、華倉さんにお似合いですね」
「そっかな?」
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