その感情

「そろそろ夏物買ってこいよ?」と菱人に言われたので。
 その日、華倉と魅耶は洋服を買いに出掛けたのですが……。
 行きの電車で、まさかの遭遇。

「で、何でお前ら居る訳?」

 電車に揺られながら、でも仁王立って華倉が目の前の二人に言う。
 やだなぁ、と二人の片方――裕が嬉しそうに笑って返す。
 買い物だよ、と裕の隣に居る浅海が答えた。
 しかも行き先まで同じだと言う。

 返す言葉が無くて、華倉は盛大に溜め息を吐いた。
 そんな彼の隣で、魅耶が苦笑いを浮かべている。
 仕方無いだろ、とけろんと浅海が言う。

 いや仕方無くないよ、華倉はそう返したが、横から裕が「運命だよ」とか言ってきたので、思い切り睨んだ。
 まぁまぁ、と魅耶が華倉を宥めようとしているが、華倉の気は収まらない。
 折角魅耶とデート、と思っていたのだから、当然といえば当然だが。

 ふう、と溜め息を吐く華倉。
 別の店に行こうにも、あまり出ないから分からない。
 仕方無いのか。
 そう自分に言い聞かせ、華倉はまた息を零す。

「つーかお前らいつも一緒じゃねぇか?」

 電車が目的の駅に着き、4人は降りる。
 そんな時、不意に裕が零した一言。
 まぁ、と魅耶が口を開く。
 一緒に住んでいるから、当たり前といえば当たり前で。

 でも「一緒に住んでいる」事は誰にも言っていない。
 勿論、裕達は、華倉と魅耶は別々に住んでいると思っている。
 ゆえに、「いつも一緒」が不思議、らしい。

 うーん、と説明するとまた五月蝿くなるだろうから、と華倉は敢えて唸るだけ。
 アイコンタクトで、魅耶にも「説明するな」と伝えておいた。

 そんなこんなで地下道を歩くと、数分で某デパートに着いた。
 メンズ服売り場の階を確認し、向かう。
 丁度時期だったので、夏物の新作が出回り始めていた。
 一旦二組に別れて買い物を始める。
 それぞれ買う物が違うからだ。

「それ、華倉さんにお似合いですね」
「そっかな?」