小さな恋3
まさかの裕治さんからの誘いに、俺は嬉しさのあまりつい大声で返事をしてしまった。
周りのお客さんと先輩からの視線が、恥ずかしい。
「…じゃあ、待ってるね」
裕治さんは、クスクス笑いながら俺の頭をぽんっと撫でてからコンビニを出ていった。
そして俺はと言うと…かるく先輩から注意を受けて、その後は時計を気にしながら早く終わらないかと、商品の品だしをしていた。
***
「お先に失礼します。お疲れさまでした」
9時きっちりに仕事をあがると、俺は急いで着替え、ちゃんと鏡で見た目をチェックしてから、裕治さんの元へチャリをぶっ飛ばした。
「はぁ…はっ、裕治さん!」
ほんの数メートルしかない距離なのに、急いできたせいか、俺は少し息を切らせながら公園のベンチに座っている裕治さんを見つけると、急いで駆け寄っていった。
「そんなに急がなくてよかったのに…」
「でも…けっこう待たせちゃってるし」
裕治さんの隣に腰かけると隣から手が伸びてきて、俺は小さく肩を跳ねさせる。
そして伸びてきた裕治さんの少し大きな手に、優しく頬を撫でられた。
恥ずかしさに顔が熱くなってきて、ちらりと横を見れば。優しく微笑んでいる裕治さんの顔。今なら言えると思った俺は…。
「あの…」
「輪田くん…」
気持ちを伝えようとしたら、タイミング良く裕治さんと、かぶってしまった。そして、2人で顔を見合わせて、笑ってしまった。
これがいいきっかけとなって、俺の肩からは力が抜けた。
そして、先に口を開いたのは裕治さんの方だった。
「輪田くん。実は、伝えたいことがあって…」
「え?…なんですか?」
(まさか、きちゃうのか!?裕治さんの方から)
真剣に俺を見つめてくる裕治さんに、俺は目が離せなくなっていた。その言葉の続きに、俺の心は、期待と不安でおかしくなりそうだ。
「実は、その…輪田くんを一目見た時から…あの…」
段々と顔が赤くなって、口ごもっていく裕治さんに、俺は何だか可笑しくなってきた。そして愛しいという気持ちが大きくなってきて…
「俺、裕治さんが好きです。付き合ってください!」
「す…っえぇ!?」
俺から気持ちを伝えれば、裕治さんはタコみたいに顔を真っ赤にして、ぱくぱくと口を動かして本当に驚いている様子だった。
そんな裕治さんに俺は、顔を近づけると少し上目遣いで、裕治さんを見つめる。逃げそうになった裕治さんの腕を掴んで。
「裕治さん、返事は?」
「っ…俺も、好きだよ。愛してます」
顔を真っ赤にして言う裕治さんに、俺は嬉しさのあまり思わず、ぎゅーっと裕治さんに抱きついた。
「裕治さん…下の名前で呼んで?」
「尚和…好きだよ」
「っ!?…うん、俺も好き」
耳元で甘く囁かれた裕治さんの声に、俺は一気に恥ずかしくなってきたけど、裕治さんから離れようとはしなかった。多分、今の俺の顔は真っ赤だろうし…。
そんな俺の気持ちを察してか、裕治さんは何も言わずに抱き締め返してくれた。それからそのまま…暫く、抱き合っていたのは言うまでもない。
***
それから…
俺は相変わらず、コンビニでバイトをしている。
そして今日も俺は、愛しい恋人が来るのを今か今かと待っていた。
「いらっしゃいませ」
「!…尚和、声がでかいよ」
「あ、嬉しくてつい…」
いつもより大きな声で出迎えてしまった俺に、裕治さんは少し照れくさそうに笑って、俺の頭をぽんっと撫でてくれた。
そんな俺たちを見て、後ろから先輩の呆れたようなため息が聞こえたのは、内緒だ。
「裕治さん、他のコンビニ行ったらダメだよ?」
「行かないよ。レジは尚和がいいし」
「約束だからね!?」
「ああ、約束だ」
今日も俺は、コンビニで愛を育んでます。なんちゃって★
END
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