小さな恋2

にっこり笑って声をかければ、その人は少し戸惑いながらも名前を教えてくれた。

裕治さんは、スーツ店で働く25歳。今日は少し早く上がれたということだった。もちろん彼女なし!
かと言って、ノーマルの人を落とすのは難しい。

(ん?そもそもノーマルなのか?)

昨日の出来事を思い出して、俺は疑問に思った。そして、もっと裕治さんについて知りたくて、もっと話そうと思ったのだが…


「あ、やばっ、バイトの時間なんで、俺いきます。すいません」

「いや、こっちこそごめん。また来るよ」

時計を見てハッとした俺は、裕治さんに頭を下げて従業員入口へと向かった。
そして、ロッカーで着替えて店内に入るなり、先にいた先輩に手招きをされ、俺はその先輩に近付いていった。

「おはようございます」

「おはよう。なあ、あの常連ってさ、やっぱり輪田の知り合い?」

「え?…違いますけど、なんで?」

正直、変なことを言う人だとこの時は思った。

俺が首を傾げれば、先輩は不思議そうな顔で俺を見てきた。

「え?でもさっき、仲良さげに話してたじゃん。それに、お前が来る前「今日、輪田くんは?」て聞かれたぞ」

先輩の話からすると、裕治さんはすでに俺の名前を知っていたらしい。 名札をつけてるから、べつに変ではない…。
だけど、ただの店員の1人でしかない俺の名を覚えているものか?

この時、俺の中で小さな希望に、光がさした気がした。

「もしかして…」

「なんだ?」

「あ、いや、何でもないです。レジ入ってきます」

俺は、ニヤけた顔を先輩に見られないように、レジへと向かった。


(もしかして…両思い?)



***

バイトを終えて家に帰ると、俺はベッドに寝転がりながら、今日の出来事と昨日の出来事を頭の中で整理していた。

「んー…思い過ごしじゃない確率が、高いよな?」


初めは、たんなる客にすぎなかった。でも、ほぼ毎日見かけるようになって…俺が裕治さんに惚れたきっかけは…あれだ、初めてレジで裕治さんの相手をした時だ!

『ありがとう』て、何気ない言葉だけど…その時の裕治さんの笑顔に、キュンッてした。それから前以上に裕治さんを目で追うようになっていったんだ。

「…て、俺ベタ惚れじゃん」

決めた。明日、会ったら伝えよう。気持ちを。

***

翌日。
俺は、いつものようにチャリでバイト先へと向かった。そして、普段どおりに働きだしたのんだけど…。


「来ない…」

夜8時を過ぎても、来る気配がない。あと1時間で、俺の勤務時間は終わってしまう。

「今日は、来ないのかなー」

ため息をつきながら商品の補充をしていると、突然後ろから誰かに肩を叩かれた。驚いて後ろを振り向くと…

「裕治…さん」

「こんばんは。すぐそこの公園にいるから、終わったら少し時間いいかな?」

「え、あ…はい!」