小さな恋



俺の名は、輪田 尚和(わだ なおと)。高校1年生。
家の近くにあるコンビニで高校入学と同時に、バイトデビューした。

平日は、学校が終わってからで、土日は休み。
仕事にも慣れてきた俺なのだが、ここ最近気になってる人がいる。


「いらっしゃいませ」


それは、よく来る常連さん。
月曜〜金曜まで、毎日のように来るその人は、いつもスーツ姿で、適当に弁当とか惣菜を買っていく。多分一人暮らしで、彼女もいないんだと思う。

でも、けっこうカッコイイ。たまに、女子高生とかがその人を見ながらコソコソ話してるのも見るし、モテるとは、思う。だけど彼女はいない!絶交にいない!…これは俺の願いだけど。



「いつも、ありがとうございます」

レジへとやってきたその人に、笑顔で声をかければ…なぜか、その人の顔が赤くなった。
少し不思議に思いつつ、俺はいつものようにレジを打って、袋に商品を入れる。そう…ここまでは、いつもと変わらなかった。ここまでは…。

「65円のお返しです。お確かめください」

「ぁ…あのっ!」

「はい!?」

お釣りを渡そうとした手をそのまま握りしめられて、声をかけられたものだから俺は、驚きのあまりビクッと肩を跳ねさせた。手をつかまえられているため身動きはとれない。でも…この人の手を振り払う気もないのが事実だ。

「あの…お客様?」

俺の手を握ったまま固まってしまったその人の顔を覗き込むようにして声をかけた。すると、再び顔を真っ赤にして、その人は慌てて俺の手を離した。

ちなみに、店内にはさっきから立ち読みしてるオヤジと大学生、バイトの先輩。そして俺ら2人。
バイト中だが、この人と何かを話していても平気だろう…と、勝手に判断した俺は、その人に再び目を向けるとにっこり微笑みかけた。

すると、顔を赤くしたまま少し恥ずかしそうに目をそらされた。

(やべえ…めちゃくちゃ可愛いかも)

男前だし、身長も俺より少し高い。そんな年上の人を可愛いなんて失礼かもしれないけど、その反応が俺にはたまらなくて少し悪戯をしたくなってきた。

そこで俺は、その人の顔色を伺うようにそっと顔を近付ける。すると次の瞬間。

「…っ!わ、わぁ…!?」

「あ…!」

その人は、ビクッと体を跳ねさせて後ろに下がったかと思ったら、ひっくり返ってしまった。後ろに何もなくて良かったけど、見事に尻餅をついたその人に、俺は小さく笑いながら近付くと手をさしのべる。

「大丈夫ですか?」

「ぁ…はい。ごめん」

俺の手につかまって立ち上がると、その人は何故か俺の顔を見て、ハッとしたような顔をすると…

「あ、ありがとうっ!また来ます!」

少し慌ててレジ袋を手にすると、店を出ていってしまった。
その見た目を裏切るような態度に、その後の俺の顔は緩みっぱなしだったのは言うまでもない。

「今度、名前聞いてみよー」

***

翌日。
俺は、いつものように学校が終わるなりバイト先のコンビニへと向かった。
少し早く着いてしまったため、いつものようにチャリを止めて、店内で時間を潰そうとお客様出入口に足を向けたところで、会いたかったあの人がいるのに気付いた。

「今日は、早いんですね?」

「え!?あ…いつもの」

「輪田 尚和って、いいます。お兄さんは?」

「…戸波 裕治(となみ ゆうじ)」