雅臣と輝紀
絆の深さはそれぞれに
※高校生※
「……雅臣……」
輝紀の家で雅臣と輝紀の二人がくつろいでいると、雅臣の隣に座っている輝紀が、不意に雅臣の名を呟きながら雅臣の肩に頭を凭れ掛からせる。
本を読んでいた雅臣は肩に輝紀の頭の重さを感じ、指で本に栞をすると、輝紀の髪を撫でる。
「どうした? 輝紀が甘えてくるなんて、珍しいね」
「うるさい……」
嬉しそうに言う雅臣に、輝紀はピシャリと一言言うとそれ以上は何も言わずに口を閉じ、目も瞑った。
いつもとは少し違う輝紀。それに気づいた雅臣は、何も問いかけることをせず、指を挟んでいた本を床に置くと、輝紀の肩に腕を回した。
お互いに何も話そうとはしない。けれど、二人の間には穏やかな空気が流れていた。
何も話さなくても伝わる雅臣の輝紀に対する優しさ。それは、触れ合っている部分からじんわりと輝紀に伝わっていた。
静かな空間。時折聞こえてくる外を走る車の音。それ以外は夜のせいか、人の生活の音は外からは聞こえてこない。
輝紀の様子は、こんな風にたまに甘えたりしてくる時がある。それは決まって夜。その理由を何度も雅臣は訊いてみたいと思っていたが、訊いたことは一度もなかった。輝紀の方から言ってこないのだから、訊いて欲しくはないことなのかもしれない。そう思い、雅臣は訊くことができないでいた。
訊いたら輝紀は教えてくれるかもしれない。でもそれは、輝紀の意志とは反するものになるかも知れないと思うと、訊くことを躊躇ってしまう雅臣がいたのだった。
ギュッと輝紀に回した手に力を込める。
もっと引き寄せるように。もっと近くにいれるように。
この手を離したら、輝紀はきっとすぐに遠くに行ってしまう。そんなことあるはずないのに、雅臣はそんな気がしてしまった。
「雅臣……」
不意に輝紀が雅臣の名前を呼んできた。
「ん?」
「ちょっと力緩めて」
力入れすぎて、痛かったかな?雅臣は輝紀の言葉に、少し申し訳なさそうに腕の力を緩めた。
すると輝紀は不意に雅臣の隣から動くと、雅臣の正面にまわり、自分から雅臣に抱きついた。
普段はしてこない輝紀の行動に、雅臣は目を見開く。
力強く回された輝紀の腕。触れ合っているところから、輝紀の気持ちが伝わってくるみたいで、雅臣は目を細めると黙って輝紀の背中に腕を回した。
「……少し、このままで」
輝紀はボソリと言うと、雅臣の肩口に顔を埋める。返事の代わりに、雅臣は輝紀の髪に片手を移動させて撫でた。
言葉を交わさなくても、伝わる想い。それはお互い信頼しあっているからなせる技。
本当は言葉に表した方が形になるけれど、今はまだこのままで──。いつか絶対伝えるから。
輝紀は雅臣の温もりを躰全体で感じながら、目を瞑った。
【END】
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