記憶の中にあるもの
へんかの始まり 4
気づかれればからかわれることはあるだろうと予想はしていたが、まさか触ってくるとは思ってもいなかったせいで、激しく動揺してしまう。
止めろと言いたかったが、掴まれた股間が揉まれ躰を硬直させる。
もともと少し反応をしていたそこは、刺激に敏感に反応して硬度を増していく。
「あ、相澤、テメ――」
「……しばらく抜いてなかったのか? すぐ硬くなった」
どんどんと質量を増していくオレの股間を揉みながら、相澤はどこか楽しそうな声で聞いてくる。
ゲイでもないのに、漢の股間を弄くって、なんでそんなに楽しそうにしてんだ!? 変態か!? そうか! これもからかいの延長なのか!? それなら、放っておけばそのうち男の股間を揉んでることに嫌気が差して、止めるよな!?
……って、そこまで待ってられっか! これ以上されたら、オレの方が引き返せなくなるっての!
「相澤! これ以上はシャレにならねえからさっさと止めろ!」
「冗談じゃなければ、触っていてもいいと言うことか?」
「アンタなあ! アンタはノンケなんだろ!? こんなことして、オレがマジになったら後悔すんのはアンタの方なんだぞ!?」
まったく引き下がらない相澤に抗議の声を上げるが、相澤はそれを鼻で笑った。
「お前は、私相手に本気になるのか? 私のことはタイプでもなんでもないんだろう? そのくせに、私の裸を見ただけでココをこんなにさせているってことは、よっぽど溜まっていたんじゃないのか? それなら、一度抜いてしまえば冷静になれるはずだろ」
「お、オレはアンタの裸なんてなんとも感じてねえ!」
「違うのか? それならば、なおさら自然に勃ってしまうくらいに溜まっていたんだろうな?」
また笑いながら、ギュッと手に力を込めた。
「――っ!」
強い刺激に顔を顰めるが、股間は萎える気配を見せない。痛みに萎えるどころか、なおさら硬くなったことに驚いた。
オレにはSMの趣味なんてない。それなのに、痛みに反応するなんて、どうなってんだよ!
「……もしかして、痛くされて感じたのか?」
「んなわけあるか!」
「あ、そう?」
「うぁ――っ」
「やっぱりそうじゃないか」
さっきよりも強く握られ、その手を上下に動かされて躰が跳ねた。オレの反応が面白かったのか、相澤の笑みが深くなった。
嫌な予感。警鐘が頭の中に鳴り響く。
オレのその予感は的中し、相澤の手がベルトへと伸びてきた。焦って相澤の手を止めようとしたが、阻止される。
両手を掴まれ、頭の上で片手で一纏めにされた。
「大人しくしていろ。そうすれば、ちゃんと気持ちよくさせてやるから」
「はぁ!? マジ止めろってんだよ!!」
「単なる力比べならお前には勝てないが、丁度よくお前は酔っている。それに、大事なところを人質に取られていては、ヘタな抵抗はできないだろう?」
相澤はオレの股間を空いている方の手でつついてから、その手を自分の方に持っていき、腰からバスローブの紐を抜き取る。頭上で一纏めにされていた両手が、手際よく縛られてしまった。
あまりの手際のよさに驚いている間に、オレの両手の自由はなくなった。しかし足はまだ自由だと思い動かそうとしたが、それよりも早く相澤が足の間に躰をねじ込んできた。
両手両足の自由が利かないプラス、酔いの残っている躰のせいで、オレの抵抗するすべは全て相澤に奪われてしまった。
今まで生きてきた中でこんな状況に陥ったことのないオレは、恐怖というものを感じ始めていた。相澤の冷静な表情に、それはいっそう増していく。
「……お前を怯えさせたいわけじゃない。頼むから、そんな顔をしないでくれ」
「アンタがオレを自由にすれば、笑ってやるよ!!」
「悪いが、それをしてやることはできないな」
「なんでだよ!」
「…………なんで、だろうな……」
無表情だった相澤が、一瞬悲しげに揺れる。だが、それはすぐに楽しそうな顔に変化した。
「あまり抵抗するようなら、酷いことをするぞ?」
相澤はそう宣言すると、ベルトの金具を外し、フロントホックを外してファスナーを下げる。下着の中で膨らんでいる愚息を指で撫でてから、なんのためらいもなくボクサーブリーフの合わせから取り出した。
窮屈だった布の中から解放されたオレの陰茎が、外気に晒される。
この状態でも勃起を維持していた自分が恥ずかしくて、思いきり顔を逸らして唇を噛みしめた。
「……何度見ても、立派だな」
「何度って、二回しか見たことないだろうが……」
「ああ、そうだったな」
オレの陰茎を見て呟いた相澤に悔し紛れにツッコミを入れれば、相澤は苦笑しながら答えた。
相澤がなにをしようとしているのかは、相澤の言動から明らかだ。不意に勃起をさせてしまったモノを、抜こうというんだろう。ノンケのくせに、男のナニをどうこうしようとするなんて、正気の沙汰じゃない。
「なんでこんなことすんだよ」
「勃ってるから」
「自分で処理するからほっとけよ!」
「なに寝ぼけたことを言っているんだ。お前の週末の時間は私のものだろう、忘れたのか? 今のお前は私のものだ。私がこの時間になにをしようが、私の自由。もともと、お前に拒否権なんてものはないんだよ」
「……くそったれ」
「なんとでも好きに言えばいいさ」
逸らしていた顔を戻して相澤を睨んでも、相澤は口の端をつり上げて笑うだけだった。
こんなことが条件に含まれていると知っていたら、条件なんて呑まなかった。……いや、ただ酒を呑んで話をするだけだなんて、なんて楽なんだと油断していたオレがいけなかったんだ。もうちょっと、裏があるに違いないと警戒していたら、こんなことにはならなかったはずだ。自分の軽率さに、目頭が熱くなる。
後悔したところで、急所を人質に取られている状態ではろくな抵抗はできないのは事実。このまま相澤の好きにされていれば、相澤は満足して解放してくれるのか……。
「うあっ、っ……!」
下半身に意識がいってなかったせいか、亀頭を刺激され不覚にも声を出してしまった。
亀頭を包む温かい感触と、ぬるっとした……って、おい!?
「あ、相澤、テメっ!? なんてこと、して――!?」
視界に入った光景に驚愕した。あろうことか相澤は、亀頭を口に咥えていたのだった。
視界からの間接的な刺激と、陰茎への直接的な刺激が躰を熱く震わせる。
相澤がさっき指摘したように、最近はそういう気分にならなくて、セックスはおろか、自分で処理すらしていなかった。そのせいで、オレは敏感になっていた。いきなりフェラチオなんてされてしまったら、快感に引きずられてしまう。
しかも、初めてなはずだろうに相澤が巧い……。まるでオレの弱いところを知ってるかのように刺激してくる絶妙な舌使いに、腰が揺れそうになる。
「……名取、気持ちいいか……?」
「んなこと……」
「訊かなくても、ココの反応を見ればよくわかることだったな。……ココ、舐めるとぴくぴくする。好きなんだ、この場所が……」
舌先を裏筋の上から下へと滑らせる。腰が震え、うっかり声が出てしまいそうになったが、奥歯に力を入れて耐える。
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