雅臣と輝紀

※高校生※
〔輝紀視点〕


 夜は毎日訪れる。
 俺は夜が大嫌いだ。……いや、大嫌いだった。
 暗くなるとどうしても、昔のことを思い出してしまいがちだった。けれど今は、思い出すことが少なくなってきている。
 それは──。
「てーるーき! 今日も一緒の布団で寝よ?」
「絶対嫌だ」
「何でさ? ……あ、もしかして、昨日のこと怒ってる……?」
 雅臣はそう言いながら、俺の様子を伺うように見てきた。
 俺が夜が平気になったのは、この馬鹿のお陰なのかもしれない。
 まあ、この馬鹿と一緒にいると、思い出している暇がないって言うのが合っているのかもしれないけれど……。
「もうあんなことはしません!」
「……前も同じ様なことを言ってなかったか?」
「今度の今度は本気です! これからはちゃんと、輝くんの許可を取ってからやりますから!」
「輝くん言うな! つーか、お前の言葉にはいつも、反省の色が見られないんだよ!」
「……じゃあ、どうしたら許してくれるの?」
 雅臣は言うと、上目遣いで俺を見てきた。
 男にそんなことをされても気色悪いだけなのだが、自然と笑みがこぼれてしまいそうになる。
「じゃあ、二週間あんなことをしてこなかったら許してやる」
 それでも俺は、笑みをこぼさないようにわざと無表情に言った。
 今あそこで笑ったら、しつこく理由を聞かれていただろう。そんな面倒なことはごめんだ。
「えー!? 二週間!? そんなの俺耐えられないよ!」
 雅臣は俺の言葉に大袈裟に返してきた。
「なら許さない。これからずっと、俺に触れるのは禁止だ」
「えぇー!? そんな惨い!」
「それが嫌なら二週間ぐらい我慢しろ」
「……ずっと禁止になるくらいなら、努力します。……でもさ、輝紀」
「何だ?」
「輝紀はそんなに我慢できるの? 俺と触れ合いたいって、思わないの?」
 ……そりゃあ、俺だって思わないことはないが、あんなことをしょっちゅうするっていうのもまだ抵抗があるんだよ! それに俺は、夜にお前が一緒にいてくれるだけで、十分満足なんだよ……。
 俺は言葉には出さずに心の中で呟くと、雅臣の目を少しの間じっと見つめてから、無言のまま布団に入った。
「え? ちょっと、無視? 今見つめてたのは何?」
 雅臣は俺の動作を見て、頭に疑問符を沢山浮かべながら言った。
 俺は雅臣に見えないように布団を顔の辺りまで引っぱって、少しだけ笑みをこぼした。



 俺は夜大嫌いだった。でも今は、こいつのおかげで少しずつ平気になってきている。
 こいつがいつも隣にいてくれて、昔のことを思い出すことが少なくなった。
 こいつには感謝をしなくてはいけない。
 俺はそんなことを考えながら、まだ何かぶつぶつ言っている雅臣の声を子守歌代わりに眠りについていった。



【END】