雅臣と輝紀

夜な夜なごめん

※高校生※


 枕元から聞こえてくる、携帯の電子音。熟睡をしていた雅臣は、その音で目を覚ます。
 雅臣は半分眠ったままの状態で、今も電子音を鳴り響かせている携帯を手に取り、画面を開いて電話をかけてきた相手を確認する。
「て…るき?」
 携帯の液晶画面に映っている名前を見て、雅臣は驚きの声を上げる。
 雅臣に電話をかけてきた相手は、雅臣の恋人である輝紀だった。
 …何で輝紀が、こんな時間に?
 時計を見てみると、今は夜中の三時。
 普段から、あまり輝紀の方から雅臣に電話をかけてきたりすることはない。ましてや、こんな時間になればなおさらの話だ。
 それに、『夜十二時以降にはメールも電話もよこすな。睡眠妨害だ。迷惑だ』と、輝紀は強く雅臣にそう強く言い聞かせていた。
 そんな輝紀が、こんな時間に電話をかけてよこすなど、余程重要なことがあるに違いない。
 雅臣はガバッと上体を起こすと、通話ボタンを押して電話に出る。
『もしも──』
「どうしたの輝紀!? 何かあった!? 大丈夫!?」
 電話に出た雅臣は、輝紀が話し出すよりも前に安否の確認の声をかける。
『……うるさい』
 電話が繋がった瞬間に聞こえてきた雅臣の声に、輝紀は不機嫌な声で言う。
 その声が、普段のものよりも覇気のないものに聞こえたのは、雅臣の気のせいだろうか。
「ごめん、輝紀。それよりどうしたの、こんな時間に電話かけてくるなんて、初めてじゃん?」
『……悪かった』
「いやいやいや。全然だいじょーぶ! 俺は輝紀のためなら、いつでも電話に出るから!」
『…………ありがと……』
 雅臣の言葉に、素直に感謝の気持ちを言葉に表す輝紀。
 いつもなら照れて無言になり、そんなことを口にしない輝紀なのに、今日の輝紀は素直すぎる。
 …ホント、どうしたんだろ?やっぱ、絶対何かあったに違いないよな。
 素直なことは嬉しいのだが、どこか普段とは違う雰囲気を感じさせている輝紀に、雅臣はひどく心配な気持ちになってしまった。
「輝くん。何かあったんなら、全部俺に言ってよ?」
『輝くん言うな、アホ……』
 やはり、輝紀の声にはいつもの元気はない。
 雅臣は、こんな時に何と言って声をかけたらいいものかと、うなりそうな勢いで考えていた。
 すると、不意に輝紀が口を開いた。
『……ただ、お前の声が、聞きたかっただけなんだ……』
 消え入りそうな声で呟いた輝紀。その呟かれた言葉に、雅臣は目を見開き、次の瞬間には嬉しそうに破顔する。
「うれしーな」
『……何でだよ』
「輝紀が、俺を必要としてくれているみたいだから」
『……気のせいだろ、アホが』
 そう言う輝紀の声は、先ほどよりも元気なものになっていた。
 それに気づいた雅臣は、
「何なら、今から逢いに行こうか?」
 おどけた調子で、しかし、優しく労るような声で輝紀に言う。
『いい。いらない。来るな。結構です。遠慮しときます』
 きっぱりと答える輝紀。
 …やっと、いつもの輝紀になった。
「ひどいなー。そこまで言わなくてもいーじゃん」
 普段ならばここで嘆いたり悲しんだりする雅臣なのだが、今日だけは笑って答えていた。
『夜遅くに、悪かったな』
「いいえー。ねえ、輝紀」
『何だ?』
「早く逢いたいな」
『………………』
「輝紀?」
『……そう…だな』
 返ってきた声は、照れを含んでいて、それを聞いた雅臣は満面の笑みを浮かべる。
「おやすみ、輝紀」
『ああ。おやすみ…雅臣』
 輝紀は柔らかい声で答えると、電話を切った。
 今日はいつもより早く起きて、早く輝紀に逢いに行こう!
 雅臣は携帯を閉じながらそう思うと、もう一度布団の中に潜った。



【END】