雅臣と輝紀
暴力反対!
※高校生※
「輝くんに一つ言いたいことがあります!」
「その呼び方をするなと、何度言ったら分かるんだ? あぁ?」
輝紀は雅臣の耳を思い切り引っ張りながら、声を低くして言う。
「いたいいたいいたい! 放して!」
「自業自得だろうが。文句を言うな」
「文句は言う! 言わせてもらいます!」
珍しく口答えをしてくる雅臣に、輝紀は少し目を見開き雅臣を見る。
「何だよ?」
「暴力反対」
「は?」
いきなり真顔になって言った雅臣に、輝紀は思わず間抜けな声を出してしまった。
「ぼ・う・りょ・く・は・ん・た・い」
間抜けな顔をした輝紀に、雅臣は一文字ずつ区切りながら言う。
「……意味を計りかねるんだが」
「何でさ? そのまんまじゃんー」
首を傾げる仕草をする輝紀を可愛いと思いながら、雅臣は唇を尖らせ言う。
「何だよ、そのガキみたいな拗ね方は」
「どうせ俺はガキですよ〜」
「まったく……」
本格的に拗ねた様子の雅臣を見て、輝紀は盛大なため息をつくと、真正面から雅臣を見ながら理由を聞く。
「で。何でいきなりそんなことを言ってきたんだ?」
「あのさ、輝紀って照れたりすると、すぐに殴ってきたりするだろ? まあ、それも一種のあつーい愛情表現だってのは分かってるんだけど、やっぱ毎回殴られるのはさすがの俺も堪えるからさ」
「殴られるのはお前が悪いんだから、仕方がないことだろうが? それに、愛情表現だなんて思っていないから」
「またまた照れちゃって」
「…………」
雅臣にからかわれているのではないかと感じた輝紀は、雅臣を殴ってやろうかと手を挙げかけたのだが、ここで手を出してしまったら雅臣の言ったことを肯定してしまうことになってしまう。輝紀はそう思い、『耐えろ、耐えるんだ』と自分に言い聞かせて感情を静める。
「……で? そんなこと言うからには、お前も殴られるような発言はしなくなるんだろうな?」
「さあ?」
「お前な……」
「でもさでもさ、何で輝紀は手が先に出るんだ?」
「は?」
突拍子もない雅臣の発言に、輝紀は眉根に皺を寄せて雅臣を見る。
「やっぱ、俺の言った通りに照れてるから?」
「……知らん」
「ふーん。そうなんだー。照れてるからなんだー」
「おい、何だその嬉しそうな顔は?」
「だって、照れてるってことはちゃんと俺を意識してくれているってことでしょ?そりゃうれしーよ」
雅臣は満面の笑みで言うと、ギュッと前から輝紀を抱きしめた。
「ちょ、何っ!?」
「大好き」
「う、うるさい!」
「うぐっ!」
輝紀はついいつもの勢いで、雅臣の腹部に拳を食らわせてしまった。
「……あ、悪い」
「……暴力は、やっぱ、直らないん、だね」
輝紀の拳が思いの外キツかった雅臣は、腹部を押さえてうずくまった。
「お、おい!? 大丈夫かよ!?」
いつもより大袈裟な反応をする雅臣に、輝紀は慌てた様子で雅臣を介抱するのであった。
【END】
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