雅臣と輝紀
君のためならこの○○○君に
※高校生※
紅い夕日が空一面を照らす頃、輝紀は一人公園のベンチで空を眺めていた。
公園で遊んでいた子供たちは、みな母親が迎えにきたりなどで帰路に着いて行く。
そんな風景を輝紀は横目に見ながら、ぼんやりと物思いに耽っていた。
「……俺は、何で公園にいるんだ?」
……それは思っちゃいけないお約束。
「そんなの俺が知るかよ」
そんなことばっかり言ってると、今から雅臣に変えちゃうからね!そんな我侭ばっかり言って、輝紀はどうしてそうも素直じゃないのかな!?
「何で俺が怒られなきゃいけないんだよ……」
輝紀が怒られるようなことしてるからでしょう!?
「……雅臣」
はい。……って、はっ!!
「やっぱりお前か、まったく何がしたいのか。出て来い」
わ、私は雅臣くんなんかじゃないよ? 私は天の声。
「何寝ぼけたこと言ってんだ。さっさと出てこないと、別れるぞ」
「それはいやー! ……あっ、しまった」
「……単純な奴」
「こ、これは違うから! 俺は俺であって俺じゃないから!」
「何を言ってんだお前は。お前がお前じゃないなら、今ここにいるお前はいったい誰だ」
「だからね、俺は俺なんだけど、ここでは俺じゃなくて、でも俺の本質は同じで、でもでも、ここでは俺じゃないって言う設定で……」
「……もういい。訳が分からなくなってきた」
「俺もー」
「……で、何がしたかったんだ?」
「えーと、特に何もないんだけど、シリアスなことがしたいかな? って思ったりしたから」
「だから、夕方の公園に連れてきたのか?」
「そうそう」
「そうそうって、お前な。こんな馬鹿なことして、いったい何の意味があるって言うんだ?」
「馬鹿って……。そんなこと言わなくったっていいじゃないのさ。俺だって真剣なんだよ?」
「アレのどこが真剣なんだか」
「俺なりに頑張ってみた」
「おかしな頑張りようだな」
「輝紀のためなら俺は何だってできるんだよ?輝紀を愛してるんだからね」
「お前の愛は見えにくい」
「こんなに分かりやすいのに、どうして分からないの?輝紀には愛はないの?」
「ないかな」
「て、輝紀!!!!」
「怒鳴るな、うるさい」
「これが怒鳴らずにいられるか!」
「なあ、俺もう疲れた」
「俺は全然疲れてない!」
「……昨日、雅臣が無理させたせいで、体がきついんだよ」
「て、てるき」
「あんなに何回もして、俺の身にもなって欲しかったな……」
「輝紀。そ、そんこと言って、あ、あの……」
「何照れてんだよ」
「だって、輝紀がそんなこと言うから」
「冗談に決まってんだろ」
「そんな酷い!」
「お前のした仕打ちに比べたら、俺の冗談なんて取るに足らないだろうが」
「俺が何をしたっていうのさ」
「お前は、ついさっきまでしていたことをもう忘れたと言うのか?」
「俺、何したっけ?」
「雅臣……」
「ご、ごめん。忘れてないから、怒らないで!」
「怒っていない、呆れてるだけだ」
「呆れもしないで! 見捨てないで!」
「縋るな、うざい」
「輝紀が冷たいー」
「どうせ俺は冷たいよ」
「……輝紀、もしかして前言ったこと気にしてるの?」
「何のことだ? 俺は過去は振り返らない性質だからわかんねーな」
「その生き方は素晴らしいと思うけど、今は怖いだけなんだけど」
「ほう、俺のことが怖いのか。なら、俺に近づくな。俺はもう帰る」
「ちょっ! 俺を置いていかないで!」
「だから縋るな!」
「蹴らないで! 暴力反対!」
「俺の振るうのは暴力じゃないんだろ?」
「そうだけど」
「なら、喜んで受けろ。この変態」
「一言多いって」
「それが俺」
「今日の輝紀なんかおかしいよー」
「それが俺」
「元に戻ってよー」
「これが俺」
「会話が成り立たないって輝紀」
「これが俺っ」
「て〜る〜き〜」
スタスタと早足で去って行く輝紀に、雅臣は今にも輝紀の足に縋りつきそうな勢いで輝紀の後に慌ててついて行った。
「まだやるか」
「アレは俺じゃない!」
【END】
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