雅臣と輝紀

雅臣君のテスト勉強

※高校生※


輝:……お前、人の家に来ていきなりテーブル占領して何やってんだ?

雅:ん? 何って、見て分かんない?

輝:……俺、もしかして寝てんのか? コレ、夢か?(自分の頬を抓る。その痛さに顔を歪めた)

雅:大丈夫、起きてるから! つか、失礼だな輝紀!

輝:だってさ、それ、教科書だろ?(テーブルに広がっている数学の教科書を手に取る)

雅:そーだよ。どう見たって教科書でしょ? 漫画には見えないでしょ?

輝:お前が教科書……。お前が勉強……。

雅:だから、失礼だってば。俺だってテスト勉強くらいするの!

輝:お前が学校以外で教科書開いてんの初めて見たんだから、驚くに決まってんだろ?

雅:俺だって、ちゃんと家で勉強してんだよ。

輝:本当かよ? 教科書開くだけ開いて、後は違うことしてんじゃねえのか?

雅:うっ……。(輝紀の言葉に顔を引き攣らせる)

輝:……やっぱり図星かよ。

雅:そ、そんな時も、たまーにあるけど! ちゃんとしてる時もあるから!!

輝:ちゃんと勉強してて、赤点常連者なわけか?

雅:じ、常連ってわけじゃないし。たまに、だ、し……。(だんだんと声が小さくなっていく)

輝:そうだな。倫理と現文はたまに、だよな?

雅:そ、そーだよ。たまに!

輝:でも、コレとかは毎回、だろ?(手にしている教科書を振る)

雅:い、一学期は赤じゃない時もあったもん。

輝:中間の時だけな? つーか、俺には赤点を取り続けられるお前の頭の中が信じられないんだよな。

雅:そりゃ、いつも上位に名を連ねている輝紀くんには、勉強のできない俺の気持ちなんて、さっぱり分かんないでしょうよー。

輝:俺は上位常連じゃねえよ。

雅:三十位以内には入ってんじゃん。

輝:たまたま前回がそうだったってだけだろ。

雅:俺は100位以上になったことないのにー!

輝:……マジかよ、知らなかった。

雅:……俺、泣いていい?

輝;ま、待て、泣くほどじゃねえだろ!?(目に涙の浮かぶ雅臣に、慌てて雅臣の頭を撫でる)

輝:……何? 慰めてくれてんの?

輝:な、何つーか。……俺が、悪い、のか?

雅:そーだよ! 輝紀が俺を苛めたのが悪いんだよ!

輝:俺、苛めたか?

雅:俺が頭悪いって、苛めたんだー!!

輝:何言ってんだお前。事実を言って、何で苛めたことになんだよ。それに自分でも認めてたじゃねえかよ。

雅:……輝紀、俺、頭悪い野結構気にしてんだよ?

輝:なら努力しろよ。

雅:してんだよー? これでも、頑張ってんだよー?

輝:で、今の展開になってるわけか?

雅:うん。自分の家でやっても、すぐに飽きて駄目になっちゃうと思ったから、輝紀のところに来てみたのさ。それに分からないところあったら、すぐに輝紀に訊けるし。

輝:……その理由に納得できないのは、俺だけか?(さっきまで泣きそうになっていた雅臣の変わり身の早さに、大きくため息をつく)

雅:今回は赤点取らないようにしたいんだよ。協力してよ、輝紀?

輝:……俺がお前に協力して、本当にお前、赤点取らないって自信あんのか?

雅:うん! マジで頑張る!

輝:約束しろよ?

雅:するする、ちゃんと約束する! だから、手始めにココ、教えて?(輝紀の手から教科書を取り、開いていたページの一番最初の問題を指差す)

輝:……なあ。

雅:ん?

輝:ココ、今回のテスト範囲の一番最初のところだよな? ……初っ端から分かんねえで、本当に大丈夫なのかよ?

雅:う、うん……。

輝:おい、さっきまでの自信はどこにいったんだよ?

雅:こ、ここにちゃんとまだある! ……と、思う。(どんと胸を叩き、すぐに焦りの表情を浮かべる)

輝:…………。

雅:いたっ!! 無言で教科書で叩かないで!

輝:ここはな、この公式をちゃんと理解しないと解けないんだよ。

雅:ちょっ!? 俺のことはムシ!? いきなり解説始めないで!!

輝:この数式とコレをだな……。

雅:……もう、何か。うん、まあ、コレが輝紀だよね。(完全に自分のことを無視し始めた輝紀に、悲しくなりつつ、ペンを持ち、輝紀の説明を聞く体勢を作る)

輝:…………。フッ。(真剣に勉強の体勢を作った雅臣に、ふわっと表情を緩ませる。真剣な雅臣はその変化に気づくことはなかった)



後日――。


雅:輝紀!!

輝:ちょっ!? ここ学校!!(抱きついてきた雅臣にうろたえる)

雅:大丈夫! 今は放課後だし、二棟にはほとんど人来ないし、現に誰もいない。それにもし見られても、別にいいじゃん。

輝:お前がよくても、俺はよくねえんだよ! は・な・れ・ろ!!

雅:やん。輝紀のいけずー。

輝:どこがだ! ……で、何の用なんだ?

雅:そうそう輝紀! 見てコレ!!(手に持っていた紙を、ばんっと輝紀の目の前に突き出す)

輝:ん? 今日返ってきたテストか? ……ほー。

雅:すごいでしょ? 俺、自分でもカンドー!!

輝:六十九点か。自己新?

雅:うん。高校の数学のテストで初めて見た数字! マジ嬉しい! コレも全部輝紀のおかげだよ! 本当にありがとう輝紀!

輝:だ、だから、抱きつくな!

雅:だってこんなに嬉しいんだもん! この嬉しさ、躰で表現したいじゃん!!(輝紀に背中を叩かれつつも、めげずに抱きつき続ける)

輝:……たく。(疲れたので、諦めた)

雅:輝紀―、愛してるー。

輝:まったく、たったコレだけのことで、お前は大袈裟すぎなんだよ。

雅:だってー。

輝:マジ泣くなよ。しょうがねー奴だな。(涙ぐむ雅臣に、優しく笑いながら、雅臣の頭をぽんぽんと軽く叩く)

雅:輝紀の愛を感じた。

輝:……バーカ。

雅:うん。

輝:頷くなよ。


 「好き」と呟く雅臣に、輝紀は答える代わりに軽く抱き返した。
 少しの間だけそうしていた二人は、輝紀の「本当に誰かに見られる前に帰るぞ」という言葉で帰路に着いた。
 その後、すべてのテストが帰ってき、幸いなことに今回の雅臣のテストに一つも赤点はなった。
 それが毎回であることを望む輝紀であったが、テスト毎に雅臣に勉強を教えるのは少しばかり骨が折れるので、それは勘弁して欲しいと思った輝紀であった、
 ちなみに、輝紀は今回二十位以内に入り、雅臣に「やっぱり頭いいんじゃん!」と散々言われたとか、言われなかっとか……。



【END】