雅臣と輝紀
発見
※【限界突破】の続き※
夜もだいぶ更け、外は静寂に包まれていた。輝紀の部屋の中では、その静寂の中に二人分の吐息と衣擦れの音を響かせていた。
雅臣の服の中を弄っていた輝紀は、雅臣の上着を脱がせ、胸から腹部へキスを移動させてゆく。そして、雅臣のズボンのベルトに手をかけ外すと、下着を残してズボンを脱がせた。
下着一枚の姿になった雅臣は、珍しく恥らいながら身を捩る。
「お前、もしかして、キスだけで半勃ちになってんのか?」
下着の上から、形の変わりかけている雅臣の雄に指を這わせながら、輝紀が意地悪く言う。
「べ、別にそんなこと、言わなくても、いいじゃん」
「何言ってんだよ。お前だっていつも言ってんじゃねえかよ」
「そ、そーだっけ?」
輝紀に睨まれ、雅臣は冷や汗を背中に浮かべながらフイッと視線を逸らした。
雅臣の雄に触れていた輝紀は、その指を内股に移動させ、グッと力を込めてなぞる。
敏感な所をなぞられ、雅臣の体が少しだけ跳ねた。そんな雅臣の反応を楽しみながら、輝紀はこれからこいつのことをどうしてやろうか……。と、思案をしていた。
直接手か口でヤってもいいし、あえて肝心なところには触れずに焦らすのもいい。いつも俺がやられてることを、そのままヤリ返してみるのも悪くないし、今までにヤったことのないことにチャレンジしてみるのもいいかもしれない。
雅臣の腿を撫で、時折内股の付け根をぐいぐいと押しながら、考えていた輝紀は、ふと何かを思いつき、わずかなじれったい感覚に身を捩じらせていた雅臣をその場に残し、クローゼットのところまで行くと、なにやらその中を捜索し始めた。
「てるき?」
中途半端な愛撫をされ、放置された雅臣は、輝紀の行動を目で追いながら膝を閉じ、反応している自身を隠すようにした。
何かを探している輝紀は、「確か、この辺りで見かけたんだよな……」と呟きながらクローゼットの中身をひっくり返していく。輝紀はいったい何をしているんだ? 雅臣は疑問に首を傾げながら、輝紀が戻ってくるのを待っているしかなかった。
しばらく輝紀の捜索は続き、ようやく目的の物を見つけたらしい輝紀が雅臣の元に戻ってきた。
輝紀が手に持っていた白い箱。それを目にした雅臣は、サーっと顔から血の気を引かせ、顔を引きつらせる。
「て、輝紀くん、それ、なんなのかなー?」
「何って、それはお前がよーく知ってんだろう?」
「さ、さあ、なんのことなのか、俺にはさっぱりー」
焦りに声を裏返させながら、雅臣は俺は何も知りませんと言った風に輝紀に問いかける。
「そうか、お前は知らないか。……じゃあ、俺の物ってことにして、いいんだな?」
ニヒルな笑みを浮かべた輝紀に、雅臣の焦りのいろはさらに濃くなる。
「それはちょっと!」
「なんだって言うんだ?」
「えっと、その、あの……。ご、ごめんなさい……」
ようやく自分の非を認めた雅臣は、身を小さくして輝紀に申し訳なさそうな表情を向けた。
そんな雅臣を見ながら、輝紀は手に持っていた箱を空け、その中身を手に取り、雅臣によく見えるように手にぶら下げる。
「えーと、輝紀くん、それ、どうする、のかな?」
不安気に輝紀の手の中の物を見ながら、輝紀の回答を待つ。
「もちろん、お前に使ってやるに決まってるだろ?」
予想通りの輝紀の答えに、雅臣は後ずさる。しかし、輝紀は雅臣を逃がさないようにと開いている方の手で雅臣の足を掴み、「動くなよ?」と凄みを聞かせた声で言った。輝紀のその声に、雅臣は動くことなどできるわけもなく、逃げたいのに逃げられないと心の中で葛藤をしつつも、その場に固まるように動きを止める。
「ねえ、やめよ? 俺、嫌だよ?」
「お前の意思なんて俺は知らん」
「そんな! 酷い!!」
「黙れ?」
動くことができないなら、せめて抗議の声をあげようと雅臣は頑張ったのだが、輝紀の一喝に雅臣はグッと言葉を飲み込んだ。そんな雅臣に、輝紀はテーブルの上に乗っているコップに口をつけ中身を含むと、雅臣に再びキスをする。
「んっ……。ふ……」
何度目になるか分からない、口の中に流れ込んできた液体を雅臣は大半を口の端から零しながら、舌を絡めてくる輝紀に合わせてキスを堪能する。
クチュクチュと唾液が混ざり合い、水音が室内に響く。
酒のせいで上がった体温に比例する舌の熱さ。とろけるような輝紀のキスに、雅臣は頭がボーっとしてきた。
輝紀に酔っているのか、酒に酔っているのかもはや雅臣の頭はそれを判断することもできなくなってきていた。
雅臣の表情がとろんとしてきたのが分かった輝紀は、唾液の糸を引かせながら口を離した。
「まだ、いけるか?」
「ん……」
雅臣の躰を心配する輝紀の言葉に、雅臣は嬉しくなり、まだ大丈夫という意味をこめて首を立てに振る。雅臣の返事を見た輝紀は、雅臣の額にチュッとキスをしてから躰を起こし、
「あのさ雅臣、ホントはこれ、使われんの、嫌じゃねえだろ?」
「……?」
少し頭の回転が鈍くなっていた雅臣は、一瞬輝紀の言っていることの意味が分からず疑問符を頭に浮かべる。しかし次の瞬間、輝紀が雅臣の目の前に掲げた物を目の当たりにし、酔いが醒めたかのようにハッと目を見開いた。
「それは俺じゃなくて!」
「あ?『俺じゃなくて』なんだ? 誰に使おうと思ってたんだ?」
「そ、それは……。――ていうか、輝紀! どうしてそれがあそこにあったっていうのが分かったの!?」
「……お前はアホか? ここは俺の部屋なんだぞ? いくら隠したからって、見つかるに決まってんじゃねえか」
「絶対に見つからないように隠したのに……。中身がそれだって分からないように、ちゃんとカモフラージュも完璧にしておいたのに」
「何ぶーたれてんだよ。つーか、人の部屋に勝手にこんなもん持ち込んでんじゃねえよ!」
「いーじゃん!」
「いいわけがあるか!」
いつもの勢いを取り戻した雅臣に、輝紀は怒鳴ると、バシッといい音をさせて雅臣の頭を叩いた。叩かれた痛さに、雅臣はくぐもった呻き声を出す。
「お前、こんなもん、いったいどこで手に入れたんだ?」
発見当初からも思っていた疑問を雅臣にぶつける輝紀。雅臣はそれに、まだ痛む頭を抑えながら、
「……とある人から入手しました」
「…………。心当たりがすぐに思い当たるのが嫌だ」
『とある人』というのが容易に想像がついた輝紀は、その人物の顔を頭に浮かべながら顔を顰め、手に持っている物に視線を落とす。
「……彩も、大変だな」
「……楽しそうだけどね」
「あぁ?」
「…………何でもないです」
ポツリと呟いた雅臣の一言を耳聡く拾い上げた輝紀に、雅臣はしまったと思いながら口をつぐんだ。
雅臣が輝紀の部屋に隠した、今まさに輝紀の手の中にある物は小ぶりのピンクローターで。輝紀は初めて見る実物に、好奇心とそれを自分に使われるところを想像し、嫌悪の表情を浮かべると、ローターに落としていた視線を雅臣に移す。
「これ、使っていいよな?」
再び訊いてくる輝紀に、雅臣はうっと息を詰める。
「……どうせ、イヤって言っても輝紀は聞いてくれないんでしょ?」
「よく分かるな」
口を尖らせる雅臣に、輝紀はサラリと答えると、
「……ちゃんと、気持ちよくしてやるよ」
雅臣の耳元で声を低くして囁き、ローターのスイッチを入れた。
静かな部屋の中に大きく響く機械音。その音を聞き、もう諦めるしかないのか?と雅臣は思いながら輝紀を仰ぎ見る。
スイッチを入れたローターを手にしている輝紀は、珍しくとても楽しそうな顔をしていた。
あー。輝紀ってばすっごく楽しそうー。俺、どうなっちゃうのー!?
ローターのスイッチを入れたと同時に、輝紀の中の何かのスイッチも一緒にオンになったらしく、そんな輝紀に雅臣は内心泣きそうになりながら、しかし、新しい輝紀の一面に少しの期待を抱き。輝紀の仕掛けてくる行動をジッと待っていた。
【END】
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