雅臣と輝紀
穴埋めです
※大学生※
雅:【穴埋め】だって。
輝:……は? なんの話をしてんだ、お前は?
雅:いやさ、だから、オレは穴埋めの要員なんだってさ。それって、どう思う? そんなんなら、オレじゃなくて、他の奴を探せばいいと思わない?
輝:……いやだから、なんの話だって訊いてんだよ。
雅:わからない?
輝:わからないな。というか、わかろうともしていない。お前の話は、ほとんどは内容がないものばかりじゃないか。それなら、初めから理解しようとなんて俺はしない。無駄なことはしない主義だ。
雅:……うん。そういうことを言うだろうってことは、なんとなくわかってた。わかりすぎるほど、わかってたよ。でもさ、ちょっとは興味持ってくれてもいいんじゃないのかな? 一応、オレは輝紀の愛しの彼氏(ハート)ってやつなんだしさ。興味持ってくれないと、オレ泣いちゃうよ? 輝紀の胸に顔を埋めて、絶対なにがあっても離さないで、泣いちゃうよ?
輝:泣くのは勝手だが、俺を使うのはやめろ。一人で泣け。部屋の隅で、膝を抱えて寂しく泣け。
雅:なんていうか、冗談で泣くって言ったのに、本当に泣きそうになってきたよ、オレ。
輝:あとで泣いた感想聞いてやるから、好きなだけ泣いてみろ。
雅:か、感想!? それってどういうこと!? 感情に感想なんてないからね!?
輝:お前なら、ありそうじゃないか?
雅:それってどういうことかな、輝紀くん?
輝:なにが穴埋め要員なんだ?
雅:……いつもの輝紀スキルを発揮された……。
輝:どんなスキルだよそれ。
雅:スルー……。
輝:? 大丈夫か、お前?
雅:や、やめて! そんな、『本当にわかりません』みたいな顔で、オレのこと見ないで! そもそもは輝紀のせいなのに、そんな顔されると、オレが悪いみたいになっちゃうじゃないよ!
輝:穴埋めって、【穴に埋められる】の略じゃないよな?
雅:話が……輝紀と、話がまったく噛み合わないよ……。
輝:……あ。マジで泣いた……。えー……。
雅:…………引くんだ……。もう、いいよ。輝紀の好きなようにして。オレは、輝紀のおもちゃで、奴隷で、下僕だから……。奴隷っていうのはもちろん、性奴隷ね。輝紀にならこき使われるってのも悪くないけど、やっぱ性奴隷の方がよくない?
輝:……………………。落ち込んでるくせに、雅臣スキルは発動するんだな。
雅:? オレのスキルってなに?
輝:変態ドエム。
雅:……うん、もう慣れたよ、そう言われるの。
輝:慣れたのか? それはつまらないな。俺としたら、もっと嫌がって抵抗して、反論して泣き叫ぶのが見たいんだけどな。
雅:オレね、映画に出ることになったの。
輝:……スルーされた……。雅臣に、スルーをされた……。なんか、地味にショックだ……。成長したな、雅臣……。
雅:いや、あの、そんな生暖かい目で見るの、止めてくれる? ちょっと試しにやってみたオレが悲しくなっちゃうから……。
輝:なんだよお前。やるなら徹底的にしろよ。映画って、なんの?
雅:輝紀は、ちょっとは会話をちゃんと成立させようとかは思わないの?
輝:それは、お前だって同じだろ?
雅:まあ、そうなんだけどさ。……ふう。とりあえず、始めに戻っとく?
輝:そうするか。俺も、なんか訳がわかんなくなってきてたしな。……で、なんの話だったか?
雅:埋める穴はないかな?
輝:……真面目に話す気、あるか……?
雅:や、ごめん。今のは、ちょっとしたお茶目だから! ……えとね、今度映研で映が作るんだって。でもね、急に出演者の一人がダメになって、代理を頼んだんだけどその人にも断られて、オレに話が回ってきたの。配役は変えたけど、出演人数の関係で、ただいるだけでいいからオレに出てくれって。
輝:で、受けたのか?
雅:断りたかったけど、部長に泣きつかれた……。
輝:……あー。あの、部長に……。そりゃ御愁傷様。俺は、それでも断ったけどな。
雅:え? 輝紀のところにも話来てたの?
輝:代役ってのが俺だったんだ。何回か、出たことがあるから。
雅:あれ? 輝紀って、写真じゃなかったっけ? 先週、撮影とか言って、山行ってきたよね?
輝:あー、なんてか、どこにも所属してないけど、呼ばれたら行くって感じ。
雅:助っ人?
輝:まあ、そんなところ。
雅:ふーん。それなのに、なんで代役断ったの?
輝:……お前、なんの役するか、聞いてないのか?
雅:へ? だから、ただいるだけでいいって。台詞もほとんどないし、そんな目立つことじゃないって。簡単だな〜って思って、なら、別にオレじゃなくて、他に役についてない部員もいるんだから、そいつらでいいんじゃないのかなって思ったんだよね。
輝:そりゃ、他の部員がやりたがらないから、他所者のお前とかに話がいったんだろ?
雅:……なんで?
輝:文字通り、【穴埋め】をするから。
雅:? どういう意味? 地面とか、そういうの?
輝:……部長の【穴】に【埋める】んだよ。
雅:……………………。な、にを…………?
輝:……なんだろうな……。
雅:…………。
輝:……………………。
雅:…………………………ちょっと、輝紀!?
輝:………………………………さようなら。
雅:て、輝紀!? じじじ冗談でしょ!? 冗談だよね!? 輝紀くんジョークだよね!?
輝:さぁて。今日の晩飯はなににするかなー。
雅:輝紀! 逃げないでちゃんと真相を教えて!!
輝:ちゃんと教えてやっただろ? 少しくらい自分で考えないと、弱い頭がもっと弱くなるぞ?
雅:いい! 頭弱くなってもいいから、オレは本当のことが知りたい!
輝:じゃ、俺、晩飯の買い物行ってくるわ。
雅:てーるきー!!!!
泣きながらすがる雅臣をよそに、輝紀は部屋から出て行ったのだった。
部屋を出た輝紀が腹を抱えて笑いを堪えていたのは、輝紀しか知りえないことだったとか……。
【END】
20130717
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