雅臣と輝紀

巻かれたリボンの使い道

※高校生※


雅:運命の赤い糸なんだよ!

輝:……は?

雅:だから、運命の赤い糸!

輝:いや、何が【だから】なんだよ。何が運命なんだかわかんねえし。

雅:なんでわからないの!? オレと輝紀は赤い糸で繋がってるっていうのに! オレはショックで倒れてしまいそうだよ!! ああっ! 目の前が暗くなってゆく!!!

輝:クサイ芝居なんかして、劇団にでも入りたいのか?

雅:オレ、演技できないから無理だよ。……って、そんな話はしてない! 小指で繋がる赤い糸の話だよ!

輝:小指か……。小指にもなんか意味があんだろうけど、俺的には小指より薬指にくっついてる方が、運命って気がすんな。

雅:薬指? ……確かに、恋人も夫婦も薬指に指輪するもんね。そう言われてみると、薬指の方がいいような気がしてきた。もう、そんなこと考えつくなんて、輝紀ってば乙女なんだから!

輝:なんでそれだけで、俺が乙女になんなきゃなんねえんだよ。いきなり運命とか騒ぎ出したお前の方が、よぽど乙女だろ。

雅:オレさ、たまに自分の頭の中がわからなくなる時があるんだ……。

輝:………………。

雅:そんな、【お前の頭の中がわからないのは、今に始まったことじゃないのに、今さら何言ってんだコイツ】みたいな目をするの、止めてくれない?

輝:よくわかったな。

雅:輝紀の言いたいことは、目を見れば全てお見通しさ! オレは、輝紀を愛しているからね。運命の赤い糸で結ばれた、決して離れることのできない恋人同士なんだから! ソウルメイトなんだから! ああ! 君の瞳を見つめているだけで、このオレの胸は息ができなくなるほどに締めつけられる! なんて幸せな苦しみ! 君の愛でこの命を落とすのならば、オレは本望だ!!

輝:死ぬのか? それは残念だ。

雅:ツッコむところが違う! 照れを懸命に隠して、演技をやってみたんだから、そこをツッコんでよ!

輝:棺桶には、薔薇を敷き詰めてやるよ。真っ赤な、血の滴ったかのような真っ赤な薔薇を、今までの想いをたくさん込めて俺からプレゼントしてやる。……棺桶? 棺? ま、どっちでもいいか。

雅:オレは輝紀より先に死なない!! 輝紀を一人にして、寂しくなんて絶対にさせない!

輝:……絶対……?

雅:あっ! ごめん、つい言っちゃった。でもね、これだけは信じて。オレは、輝紀を残して逝くようなことはしない。輝紀をちゃんと見送ってから、後に続くから。

輝:はっ。その前に、別れたりしてな。

雅:何を冗談言ってるのさ。このオレが、輝紀のことを手放すとでも思ってるの?

輝:そんなことは知らん。お前が放さなくても、俺の方から離れる可能性だってあんだろ。

雅:それはないね。

輝:……随分ハッキリ言い切るじゃねえか。

雅:オレは、輝紀よりも輝紀のことを知っている。

輝:バカ言うな。本人のことは、本人が一番よく知ってるに決まってんだろ。

雅:他人ならそうかもね。でも、他人以上に自分に興味が無い輝紀に限って、それはない。運命の赤い糸で結ばれてるオレが言うんだから、間違いない。

輝:……お前、とりあえず【運命】が使いたいだけなんじゃねえのか?

雅:それは否定できないね。言えば言うほど、本当にあることだって思わない?

輝:いや、口に出した数だけ嘘臭くなる。

雅:夢ないね。

輝:夢でいいのか。

雅:現実だね。

輝:どっちだよ。

雅:夢のある現実だね。なんだろうね、それは。

輝:俺が知るか。とりあえずお前は、運命のなんちゃらを信じてるんだな。そういうことで、話は終わりだな。

雅:身も蓋もない言い方をされると、それで終わっちゃうんだけど……。

輝:お前さ、たまには普通に話をすることはできねえのか?

雅:え? 今の今まで、普通に喋ってたと思うんだけど?

輝:普通……。オレとお前の普通は、随分と食い違ってるみたいだな。コレ。コレはなんだ、コレは。

雅:んー。それは、輝紀の薬指かな?

輝:そうだな、俺の薬指だ。そんなの、俺だって見たらわかる。俺が言いたいのは、俺のこの指についてる物は何かって訊いてんだ。

雅:あ、気づいてたんだ。

輝:目の前でやられてて、気づかないわけがないだろ。

雅:いやー。いつもならすぐ怒るのに、何も言ってこないから、てっきり気づいてないのかと思って。いくらなんでもそんなわけないよねー。

輝:怒り損ねたんだ。さっき、珍しくシリアスに喋ってたかと思ったら、突然ポケットから紐なんか取り出して人の指と、自分の指に結び始めたら、怒るよりもビックリするだろうが。

雅:そのわりには、全然顔に出てなかったけど。

輝:俺だからな。

雅:そっか、輝紀だからか。……って、納得できない!

輝:納得しなくていいから、これ解いていいか? ったく、突然赤い糸がなんたらかんたら言いだすから何かと思えば、こんな風に縛りやがって。コレがやりたかったからなんだな。赤い紐……ってか、コレはリボンか?

雅:それね、ラッピング用のリボンみたい。この淡い赤色が気に入ったから、買ってきてみた。ちょっとキラキラしてて、まさに運命って感じしない?

輝:こんな紐でそんなもんを感じろってのは、ちょっと無理ないか?

雅:本音を言うと、ちゃんとした指輪を買ってあげたかったんだけど、いかんせんオレはまだ高校生。そしてオレたちの学校は、バイト禁止ときたもんだ。今はちゃんとした指輪なんてそうそう買ってあげられないから、コレで我慢して欲しいな。

輝:……あー、その、なんて言うか……。

雅:いらないなんて言わないよね。卒業したらすぐバイト始めて、指輪贈るから。それで、オレに縛られてもらうから、覚悟しておいてね。

輝:…………。……自分の分も、お前が買うのか?

雅:え? いや、オレのは考えてなかった。

輝:仮にお前から指輪貰うとしても、俺だけつけるなんて、やだからな。

雅:んじゃ、ペアで買う。

輝:いや、お前の分は俺が買う。俺だけ買ってもらうなんて、それはなんか納得できねえからな。だから、それまでこの指は、このリボンで塞いでおけよ。

雅:輝紀……。

輝:と、いうわけで、俺は解く。

雅:ええっ!? ここは感動して盛り上がる場面でしょ!? 見つめ合って、そんでもってキスなんかしちゃったりなんかして、あわよくばその先までいっちゃって、ラブラブになるところでしょ!? ああ! そんなにあっさり取らないでよ! オレと輝紀の絆は、そんなに脆いものだったの!?

輝:俺はお前と違って、縛られて喜ぶ人間じゃない。

雅:オレだって、どっちかって言うと、縛られるより縛る方がいいもん!

輝:……俺はどっちも嫌だ。俺をお前と同じ括りにすんな、変態。

雅:……………………。

輝:ん? 図星差されて黙ったのか?

雅:……図星……。……うん、図星だよ。だから、ねえ、丁度いいことに、ここに指に結んだヤツの残りのリボンがあるんだ。結構長さが残ってるから、縛るのはいいと思うんだよねえ。どうかな、輝紀?

輝:ど、どうって……。あー、俺、ちょっと出掛けてこようかな。

雅:てーるーきー。今日はどんな手を使ってでも逃がさないからね。本当なら、オレは変態じゃないって否定するところだけど、今日は変態のままでいいよ。さあ輝紀、オレと一緒に変態になろうじゃないか。

輝:い、嫌だ!!!


 【変態】という言葉か、それとも他の言葉が雅臣の琴線に触れたのか、雅臣は異様な雰囲気を漂わせながら、余っていると言ったリボンを台紙から取り長くしながら、ジリジリと後退していく輝紀を追い詰めていく。
 決して広くはない雅臣の自室。あっという間に輝紀の退路は断たれてしまう。
 普段とは違い、追い詰められるという反対の立場に陥った輝紀は、戸惑い、果てには逃げることはできないと悟り、異常な目の光を見せる恋人を見上げながら脱力した。
 運命を語っていた時のままでいたのなら、こんな状態にならずとも、先に進んだであろうに。輝紀はぼんやりとそんなことを思ったのであった。



【END】

20150117