雅臣と輝紀

もし二人が逆であったなら

※大学生※


雅:さて、輝紀。オレが何を言いたいか、わかるかな?

輝:………………。頭が湧いたか? いや、それは前からだったな。なら、今回はどうしたってんだ? あれか。頭がおかしくなりすぎて、言葉を発せずとも人間は会話ができるようになっているとでも、勘違いしてんのか? 普通の人間だったらそんな可能性はないんだろうが、いかんせんお前は雅臣だ。常識で物を考えちゃいけない。……で、どうなんだ?

雅:……なんか、いつになく饒舌だったね。

輝:なんだか、長い間口を開いてない感じがしたから、今までの分を発散させるべく喋ってみた。が、疲れた。

雅:うん、まあ、オレも同じようなこと思ってたから、それに関しては何も言えないけど。

輝:で、本題はなんなんだ? やっぱ、テレパシーが使えるか試したのか?

雅:それはもういいよ。ただ、輝紀の華麗なるツッコミが聞きたかっただけだから。さっきのは、予想外すぎいてビックリしたけど。

輝:華麗じゃなかったか?

雅:いや、ちょっと長くて頭が追いつかなかった。

輝:馬鹿だから?

雅:うん、そうね。輝紀があんな長文喋るのはあんまりないからね。ところで、オレと輝紀が逆だったらって言われたら、何を想像する?

輝:テレパシー続いてるか?

雅:それは終わり。記憶の彼方にないないしましょうね。

輝:俺はガキか。

雅:会話というのは、得てして唐突なものなのだよ、輝紀くん。

輝:あ? 何も言ってないぞ。

雅:でも、【唐突だな】って思ったでしょ?

輝:……テレ――。

雅:会話というものは、得てして唐突なものだ。意図して前振りをし、伏線を張り会話をする人間というものは、もはや人間とは言えないのかもしれない。

輝:お前、何かに影響されてるだろ。

雅:ちょっとね。でも、間違ってるよね。わかってる。

輝;間違ってるかどうかなんて判断できるか。俺はそれを知らねえんだから。

雅:後で貸してあげる。それでどうかな? オレと輝紀の逆って、なんだと思う?

輝:逆……逆、ねえ……。お前と俺ったって色々ありすぎんだろ。

雅:ちなみにオレは、【性格】が一番最初に思い浮かんだよ。

輝:性格……。俺は馬鹿になりたくないぞ?

雅:オレ、馬鹿だけで構成されてるわけじゃないけど。

輝:雅臣の八十パーセントは馬鹿でできています?

雅:オレの八十パーセントは輝紀を想う気持ちでできています!

輝:俺の八十パーセントは睡眠を思う気持ちでできています。

雅:…………うん、そうだよね、わかってるよ。ちなみに、残り二十パーセントは?

輝:食事、娯楽……。考えてみると、わかんねえもんだな。

雅:……オレのことは、ちっともないのかな……?

輝:あ? お前? そうだな……お前は、外付けハードディスクだな。

雅:…………? あっても無くてもいいってヤツ?

輝:一杯になってるとこに追加しようとしてんだ。外付けになんのは当たり前だろ。

雅:…………あー。オレの場合は削除してるけど、輝紀は蓄積してるんだね。

輝:お前みたいに消せるほど、器用じゃねえからな。

雅:オレは器用なんかじゃないよ。ただ、輝紀から比べたら凄く薄情だからね。

輝:薄っぺらいのか。

雅:そうそう。オレは紙みたいに、吹けば飛んで行っちゃうからね。今のところオレを押さえてくれてる文鎮は、輝紀だから。

輝:文鎮って、あんなに小さいクセして重いよな……。

雅:含むものはないからね! あんまり飛躍して考えないで!

輝:別に何も言ってないが。

雅:目は口ほどに物を言う。

輝:それを悟れるってことは、お前も同じことを考えたってことだな。

雅:うっ……。

輝:こんなところで以心伝心。テレパシー、やっぱまだ続いてんじゃねえか。

雅:もしかして、無理矢理それに持っていこうとした……?

輝:まさか、そんな芸当が俺にできるわけないだろ。俺はお前ほど頭の回転はよくねえよ。偶然だ、偶然。

雅:オレのこと馬鹿って言ったり、反対のこと言ってみたり、忙しいね輝紀。

輝:そういえば、俺の大半が何でできてるかって話をしたよな?

雅:おーい、せめて会話を成立させてくれないかなー。

輝:おやすみ。

雅:えっ!? ちょっと待って!? なんとなく想像ついたけど、駄目だよ! 話は終わってないよ! こっからが大事なんじゃない!

輝:もともと、話に内容はなかったんだ。ここで終わらせたって問題ねえだろ。

雅:あるある! すっごい問題!

輝:こういうのって、寝オチって言うのか?

雅:言わない! 使い方間違ってるから! それこそ馬鹿っぽい言い方だから!

輝:この際馬鹿でもなんでもいい。俺は眠い。故に俺は寝る。おやすみ。

雅:ちょっと、やだよ! オレを一人残さないでよ!

輝:……一緒に、寝るか?

雅:えっ!?

輝:俺が思う逆ってのを、実際にやらせてくれんなら、睡眠欲を我慢してやらなくもない。

雅:……えーと、輝紀くん、なんでオレの上に跨るのかな?

輝:性格なんて精神的な話、想像上でしか無理だろ。だったら、さくっとわかりやすい逆の方が、楽しいだろ。

雅:て、輝紀くーん、やっぱり寝た方がいいかもね? 眠いから、ちょっとおかしな行動に出ようとしてるんだと思うんだけど?

輝:いっつもなんだかんだ言って妨害されてっからな。今日こそは俺が【逆】になってやるよ。

雅:やっぱりそっちに持ってくんだね!


 首筋に噛み付く輝紀に、雅臣は背中に冷や汗を垂らし、今回はどうこの難局を切り抜けようと、引きつった笑みを貼りつけながら必死に考えを巡らせるのであった。



【END】

20150117