SS
想い
お前は、俺が倒すべき相手。
俺たちは、互いに倒し合う関係。
──それなのになぜなんだ?お前が、愛しくて仕方がない。
倒したくなんかなくて、ずっと側にいたくなる。
いつも刃を交えているお前以外の、普段のお前の姿が見たくなる。
戦っている最中だというのに、違うことを考えてしまい戦いに身が入らない。
……どうしちまったんだよ、俺?いつの間に、こんな腑抜けになっちまったんだ?
今日も本気を出せずに、手加減をしてしまう。
そんな俺のせいか、お前も、本気を出していないようだ。
お前には、悪いと思っている。本気を出さずに戦っていることを……お前を、好きになってしまったということを……。
俺にお前は倒せない。けれど、俺はお前に倒されるつもりも、これっぽっちも持ち合わせちゃいない。
俺ってば、相当な我が儘な野郎だ。マジで、どうにかしちまってるぜ。
そして今日も、俺は途中で逃げだす。
逃げるなんざ、俺の性には合わないが、これもお前を想う、俺の心がさせることだ。
──お前を倒したくない。
──お前に倒されたくない。
──ずっと一緒にいたい。
──早く離れたい。
俺のこの矛盾した心は、一体どうしたら、収まってくれるんだ?
そして、俺とお前のこの戦いに、終わりはくるのか……?
そんなことを思いながら、お前の元を去ってゆく。
いつものように、
「逃げんじゃねぇよ、クソ野郎!」
と言う、お前の台詞を聴きながら……。
【END】
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