SS

雨に濡れて





 雨に濡れて、額に髪が張りついている。服も、何もかもびしょ濡れで、肌に張りついていて、気持ち悪い。
 それなのに、心だけは、乾ききったまま、濡れることがなかった──。
 ついさっき、お前が俺の前からいなくなった。
 本当に突然すぎて、全然実感がわかない。俺のこの目で、お前の命の灯が消えていくのを見たというのに……。
 なんでお前はいなくなっちまったんだ?なんで、俺一人だけを残して、先に逝っちまったんだよ?
 俺たち、これからじゃなかったのか?まだ、お前と俺は、出逢ったばかりじゃないかよ?
 ……お前、ずるいぜ。ずるすぎるぜ。
 男同士だったから、結ばれるはずがなくて、お前は逝っちまったのか?俺じゃなくて、お前が……?
 ……理不尽だ……。理不尽すぎだ……。この出来事も、俺の考えていることも、何もかもが……。
 俺はこれから、どうすればいいってんだ?
 お前に逢えて、やっと変われてきてたのに、これからは、どう生きていけばいいんだよ?
 お前との思い出に浸って生きていくのか?それとも、お前を胸にしまって生きていくのか?
 ……誰か、俺に教えてくれよ。生き甲斐を失った俺に、生きる術を教えてくれよ……。
 ──雨の降り続いている空を見上げる。
 顔は涙でグシャグシャだが、雨がそれを隠してくれる。
 けれど、その雨は、俺の悲しみは隠してはくれない。俺の心の乾きも、潤してはくれない……。
 雨に濡れていいこともあるけど、いいことじゃない方が、大きすぎる……。
 ──雨に打たれて、躰が痛い。
 ──雨に濡れても濡れなくて、心が痛い。
 この悲しみは、いつ消えるのだろう。消える日は、やってくるのだろうか……。



【END】