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戯れ



「う〜〜〜〜」
「どうした、潤(じゅん)?布団に丸まりながら唸ったりして。顔だけ出してると変だぞ」
「テッちゃん〜。俺、どうしよう〜」
「……軽くスルーするなよ」
「う〜、ごめん。だって、本当に大変なんだもん〜」
「はあ……。何だよ、泣きそうな声出して?また何かしたのか?(まあどうせ、ろくなことじゃないだろうけどな)」
「……テッちゃん、『また』って何?酷くない〜?俺、そんなしょっちゅう問題なんて起こしてないよ〜」
「いやあさ、俺の知る限り、お前はいっつも何かしら問題を起こしている印象があるからな」
「酷い!俺のことそんな目で見てたんだ?テッちゃんのバカ〜」
「おいおい、拗ねるなよ。俺が悪かった。顔まで布団の中に潜すな」
「……ホントに悪いって思ってる?」
「(顔は見えないけど、声からして本気で拗ねてるな)ああ、思ってる思ってる」
「何か、怪しい〜(絶対、変なこと考えてるよね?)」
「悪かったって、疑うなよ」
「……じゃあさ、テッちゃん。ホントに悪いって思ってるなら、俺にキスして?」
「…………嫌だ」
「何で〜!?いつもはしてくれるのに!?それに、『嫌』なんて、今まで一回も言ったこと無かったじゃん?(もしかして、俺のこと嫌いになったの?)」
「別に、嫌いになった訳じゃないぞ」
「えっ……?何で俺の考えてたこと解ったの?もしかして、俺の心読んだ?」
「あほか。そんな芸当ができる訳ないだろう」
「じゃあ、何で?」
「お前の考えそうなことは、大体察しがつくからな(単純だから)」
「ふーん……(それって、愛されてるって証拠かな?)…って、それより何で『嫌』なんて言ったのさ!?」
「あ、いや…特に、これといった理由はないんだが?」
「嘘だ!訳もなくテッちゃんが俺に冷たくする訳ないもん!」
「(本当に、理由なんてなかったんだがな)……それは、俺が信用されてるって思っていいのか?」
「当たり前じゃん!テッちゃんは俺の一番大切で、一番大好きな人なんだから!」
「そ、そうか……(何か、そうも正直に言われると、照れるな……)」
「そうなの!だから、キス…して?」
「うっ……(俺、こいつの上目遣い、結構弱いんだよな……。もしかして、分かっててやってんのか?)」
「テッちゃん……?」
「そ、それより、さっきの唸りは本当になんだったんだよ?」
「話を逸らさないでよー」
「……いや、最初に話逸らしたのはお前だろ?」
「そうだけど〜……」
「して欲しかったら、俺の質問にもきちんと答えろ。キスは、その内容次第だ」
「う〜(体よくあしらわれた感じがする〜)」
「ほら、早く話せよ。いったいどうしたってんだ?」
「……うーん……。言っても、テッちゃん怒んないでくれる?」
「そんなの聞く前に言われたって、分かる訳ないだろう?早く言ってみろよ」
「う〜ん……。あのね…俺、昨日、テッちゃんの携帯いじってたんだ……」
「そんなの、いつものことじゃないか。それだけなら俺は怒ったりしないのは、分かっているだろう?」
「それは分かってるんだけど〜……。話はここからなんだよ」
「何なんだ?もったいぶらずに早く言えよ(ここまで渋るなんて、いったいどんなことをやらかしたんだ…?)」
「あのね…その時に、メールが来て……」
「…………(それを見たんだな……。でも、見たくらいでそんなに悩む必要はないと思うんだが)」
「それで、そのメール見て、腹立っちゃって、つい勝手に返信して、そして、そのメール…勝手に、消しちゃった……」
「……は……?ちょっと待て。…えーと、メールは誰からだったんだ?(腹が立った?いったい誰からだよ?てか、消したのかよ?!)」
「“カオル”って人……」
「カオル……(はあ…。あいつか……)」
「誰なの?文が、女の人っぽかったんだけど?」
「……カオルは女じゃないよ。俺の…兄ちゃんだ」
「えーっ!!テッちゃんの兄ちゃん!?てか、兄ちゃんの名前初めて知った……」
「あの人、オネエなんだ……」
「オネエ……。オカマさん?」
「んー…そうなのかは、分からない。一応、彼女いるし」
「?じゃあ、何なの?」
「……さあ?俺にもよく分かんねえ」
「兄ちゃんなのに?」
「そう」
「変なのー」
「ほんとにな。……それはそうと、何で腹が立ったりなんかしたんだよ?んで、消したメールには、何が書いてあったんだ?」
「……テッちゃん、俺のしたこと、怒ってない…の……?」
「怒るよりも、勝手にメールは見るは、勝手に返信はするは、勝手に消すはで、怒りを通り越して呆れてる」
「本当に、ごめんなさい……」
「もういいから。で、何て書いてあったんだ?(腹が立ったって言うくらいなんだから、相当な内容だったに違いないだろうな)」
「(テッちゃんってやっぱり、心が広いよ。それに、優しいし)……あのね、『久しぶりね、哲実(てつみ)。今度はいつ私の所に来てくれるの?今度来たときは、とびっきりおいしいご飯用意して待ってるからね。来るときは、ちゃんと連絡入れてよ?』って……」
「あ、ああそう(何て紛らわしい内容。これじゃ潤が誤解してもおかしくはないな……)」
「それで、ハートもいっぱいついてた……」
「ああ…まあ…、ハート乱舞はいつものことだ……(俺はもう慣れたけど、初めて見た奴にはキツいだろうな……)」
「そ、そうなの……?(それしても、すごい数だったよな。俺もハートたまに使うけど、使ってせいぜい一、二個ってとこだもん)」
「……で、潤は何て返したんだ?(これが一番気になるところだよな)」
「え…?えーと…『すまない、もう行けないかもしれない。俺には他に、すごくおいしいご飯用意してくれる奴いるから』って、返し…ました……」
「(あー。何か、嫉妬丸出しな内容だな。でも、そこが可愛いんだよな)俺にそんな奴って、いたっけ?」
「い、いるじゃん……」
「(あはは。目、おもいっきし逸らしやがった)もしかして、お前のこと?でも俺、お前に飯を作ってもらった記憶、ないんだけど?」
「う……!そ、それは……」
「ついでに言うと、俺がいつも飯を作っているような気がするんだが?」
「(なんか今のテッちゃん、すごく意地が悪い!)こ、これから作るようにするもん!」
「あはは。まあ、楽しみにしてるよ(おそらくやらないだろうがな)」
「て、テッちゃん、信じてないでしょ!?」
「いいや、そんなことはないぞ?ちゃんと信じてる」
「う〜……(絶対信じてないよ!)」
「(ふっ、疑ってる疑ってる。おもしろい奴)……潤、ちょっとこっち向け」
「…え?何──っ!」
「……どうだ、これで機嫌は直ったか?」
「ふ、不意打ち〜!」
「お前…ほんと可愛いな(いろんな意味で)」
「そう?どの辺が?(今までは『可愛い』って言われるの嫌だったけど、今は嬉しくなってるな〜。不思議だ)」
「どこなんてない。潤の全部が可愛いんだ」
「あはは。(テッちゃんに頭撫でられると、すごく安心する……)ありがとう、テッちゃん」
「どういたしまして。……それよりさ、メールのことを、何で今さら悩んでたんだ?」
「え?いや、さ……。やっぱり、悪いことをしちゃったよな〜って思って……。そんで、ちゃんと謝らなきゃいけないよなって……」
「それを、昨日からずっと悩んでたのか?」
「うん……」
「(いやあ、ほんといじらしい奴)お前って、嘘とかつけないもんな」
「それは、いい意味?」
「もちろん。素直でよろしい、って意味だ」
「……いい意味に聞こえないのは、俺の気のせい?」
「そうそう。気のせい気のせい」
「…………(なんか、いいように流されてる?)」
「あんま深く考えんなよ?それと、やってから悩むようなら、今度からはもうするなよ?」
「はい。ほんとにごめん、テッちゃん」
「いーってば」
「優しいね、テッちゃん」
「お前だけにだよ」
「(うわー。何かキザっぽい。でも、嫌ではない俺って、変?)」
「黙って見つめるな。キス以上のこと、しちまうかもだぞ?」
「ふふふ。いいよ…?テッちゃんになら、何されたって……」
「お前なあ……。どうなっても、知らないぞ?」
 哲実は微笑みながらそう言うと、潤に軽くキスをして優しく抱きしめた。
 潤もそれに応え、哲実の背中に腕を回す。
 二人はキスを繰り返しながら、ゆっくりとその場に倒れ込んでいった。



【END】