SS
愛してはいるけれど
恋人と付き合いを始めて、もう少しで一年が過ぎようとしていた。
俺の恋人は、どこか抜けたな奴で、俺が少し機嫌が悪くなると、すぐ不安になっちまうような奴。
まあ、いわゆるヘタレってやつ?しかも、そのヘタレは俺と同じ性別の男。
今はもう、付き合い始めの頃よりは負い目などを負わなくなってきているし、変に隠したりもしなくなった。
だからなのかな?何だか最近、一緒にいても新鮮味がないって言うか、何て言うか……。
「これってもしかして、世に聞く倦怠期ってやつなのか?」
「は……?お前、突然何言ってんの?」
俺が呟いた一言を聞いて、俺の恋人…晶悟(しょうご)が、眉間に皺を寄せながら訊いてきた。
「うーん?俺たちの今の状況って、そうなのかなー?なんて思ってさ」
「な、な、何を言ってんだ!そんな訳ないだろ!?俺たちは今でもラブラブじゃないか!」
晶悟は俺の言葉を聞いて、慌てた様子で俺の肩を掴んで、必死に言ってきた。
おー。何か、予想通りの反応をしてくるな。面白い。
俺は、こんな反応を返してくれる晶悟が何だか嬉しくて、もう少しだけからかってみることにした。嬉しいと言うより、面白いって言う方が当たってるかもしれないけれど。
「まあ、ラブラブなのは認めるとして、何だか最近、ドキドキすることが少なくなってきたって言うか。だからさ……」
「待て待て!それ以上言うな!」
晶悟は言って、思いっきり俺を抱きしめてきた。その力が強くて、一瞬息が詰まった。
「し、しょう…くるし……」
「あ、わ、悪い。お前があんなこと言うから、つい……」
晶悟は腕から力を少し抜いて言った。それでも、俺を抱きしめたまま放しはしなかった。
「俺が何を言うと思ったんだよ?」
晶悟の動揺する姿を、いじらしいと思いながら、緩んでしまいそうになる頬に力を入れ晶悟に訊く。
「お、俺は、お前がとんでもないことを口にするんじゃないっかって思って……」
「とんでもないこと?」
「だ、だから、その……」
晶悟は口ごもりながら、何かをぶつぶつ言っていた。
「別れると言うとでも?」
「……まあ、大体そんなところ……」
小さな声で答えた晶悟に、俺は耐えきれなくなって、小さく吹き出した。
「ち、ちょっとお前!?ここは笑うところじゃねえぞ!」
「悪い悪い。あまりにもお前がおかしくて」
「元はと言えば、お前があんな発言するから!」
「わーるかったって」
怒る晶悟に、俺は笑いを抑えて言うと、
「俺の考えが間違ってた。新鮮味がなくなるってことは、お互いがもっと近くになったってことだったんだからな」
と言って、晶悟の背中に腕を回した。
「…何を言ってんのか分からないが、お前は、ずっと俺と一緒にいてくれるんだよな?」
俺の肩口に顔を押し付けながら、少し不安そうに言う晶悟。
「ああ。ずっと一緒だ。お前といると、飽きないしな」
「最後の一言が、何か引っかかるんだけど……」
「まあ、気にするな」
俺は微笑いながら、晶悟の温もりを感じていた。
俺たちの付き合いは、まだまだ短い。これから沢山、いろんなことをやっていきながら、年月を重ねていくんだ。
その中でたまに、今日みたいなことを考える日が来るかも知れない。
そんな時は、こいつと、こんなやりとりなんかをしながら、自分の気持ちを、再認識することにしよう。
その度に、こいつはこんな反応を返してくれることを、予想しながら。
【END】
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