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暖かさと優しさ



「ゆっくりでいい。ゆっくりでいいんだからな……」
 貴方はそう言いながら、ぼくの頬にそっと触れた。
 貴方の手は温かくて、ぼくを安心させてくれる。けれどその反面、ぼくはその温かさを申し訳ないと思ってしまう。
「……ごめんなさい」
「謝るなって。悪いのはお前だけじゃないんだから」
「あれは──」
「もう済んだことだっ」
「──っ!?」
 貴方は少し強く言うと、ぎゅっとぼくを抱きしめてきた。ぼくはただ驚いて、言葉を発することもできず貴方の腕の中に収まった。
 ぼくを抱きしめている貴方の腕は少し震えていたが、その力は苦しいくらいに強い。
「お願いだから自分を責めるな。お前だけが悪いんじゃないんだよ……」
 耳元で囁かれる言葉は、貴方の口から出てくる声とは思えないくらい弱々しい。
 それでぼくは、貴方にたくさん心配をかけてしまっているんだと気づかされた。
「……ごめんなさい」
「だからっ!」
「貴方に心配をかけさせてしまって、ごめんなさい」
 だからぼくは、今度はあの人にではなく、貴方に謝った。
「お前……」
 すると貴方は、ぼくを少し離してぼくの顔を見てきた。その貴方の顔には苦笑いが浮かんでいた。
「ありがとう」
 その顔を見たぼくは、今できる精一杯の笑顔を作って言う。
「ばか……」
 貴方はそう言うと、再びぼくを抱きしめてくれた。



 あの人のことは本当は全部ぼくのせい。
 でも貴方は優しいから、ぼくだけのせいじゃないと言って抱きしめてくれた。
 貴方のその言葉と抱擁は、今のぼくにとって何よりも大切なものだと思える。
 貴方はどうして、ぼくにこんなに温かく優しく接してくれるんだろう……。
 もしかして……。という希望を抱いてもいいのだろうか?



【END】