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心の内にだけ
これは一体何だろう……?
俺は自分の目の前に差し出された物体を見て、思わず目を見開いた。
「ごめんなさい……」
「あ、いや、別に謝らなくてもいいんだけど……。何をしようとしたの?」
今にも泣き出しそうな顔をして俺を見上げてくる少年に、俺は物体を指さしながら言った。
その物体は、黒くて丸かった。
「お、おれっ、兄(にい)の役にたちたくてっ」
「あー、泣かないでいいんだよ!俺は怒ってないんだから!」
俺は涙を浮かべ始めた少年を宥めながら、俺は先程と同じ質問をした。
「で、何をしようとしてたのかな?」
「……あのね、おれ、兄のためにご飯作ろうと思って──」
「焦がしたの?」
「うん……」
少年は涙を浮かべながら俺を見上げてきた。その顔を見て、俺は微笑みを浮かべた。
少年が俺のために何かをしてくれようとしたのは今回が初めてだったので、嬉しくてしょうがない。
ようやく、この生活に慣れてきたのかな?
俺はそう思いながら少年と目線の高さを合わせるためにしゃがみ、そっと頭を撫でてやる。
「ありがとうな。じゃあ、これから一緒に作るかい?」
「……うん!」
少年は勢いよく頷くと、俺に抱きついてきた。
「うわっ!…どうした?」
「兄、大好き!」
いきなりのその言葉に俺は一瞬目を見開いてから微笑むと、少年を抱きしめ返した。
俺も少年のことは好きだけれど、少年と俺の好きの意味は違うんだろうな……。
「さ、作るぞ」
「うん!」
俺は少しだけ苦笑してから少年に言うと、食事の支度に取りかかった。
俺のこの想いは、決して君には知られてはいけない。
【END】
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