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手袋といえば



「冷てえ」
 君は小さく呟きながら、手を擦り合わせていた。
 僕はそんな君を横で見ながら、少し意地悪な気持ちになって、これ見よがしに鞄の中から手袋を取りだしてそれをはめる。
「……てめえ、いい性格してやがんな」
「それはどうも」
「褒めちゃいねえよ!」
 君は怒鳴ると僕の腕を強めに殴った。
「痛いよ?」
「けっ。知るか」
 君はそう言うと、足を少し早めて僕の前をすたすたと歩き出した。
 僕はそんな君の後ろ姿を見て笑みを浮かべると、君に追いつくように足を早めた。
「まったく、しょうがないね」
 僕は君の右隣につくと、わざとらしくそう言って君の左手をとった。
「おいっ!何してんだ!?」
「見れば分かるだろう?手袋をはめてあげているんだよ」
 はい、できた。と僕は言って君の手を離す。
「何で左だけ……?」
「何でって、右手はこうすれば暖かいだろう?」
 僕はそう言うと、手袋を取った左手で手袋をはめていない君の右手をとり手を繋いだ。
「手、冷たいね」
「ばっ!お前!何こんなベタなことしてやがんだ!」
「でも、暖かいだろ?」
「そーいう問題じゃねえ!もしこんなとこ誰かに見られたら……」
「そんなこと言っているわりに手を離そうとしないのは、なぜかな?」
 僕が笑い混じりに言うと、君は顔を真っ赤に染めてそっぽを向いてしまった。
「素直じゃないんだから」
「うるせー!誰かに見られないうちにさっさと行くぞ!」
 君はそう言って、僕の手を引っ張るようにして早足に歩いて行こうとする。
 そんな君の姿があまりにもいじらしくて、僕は君に見られないように右手で顔を隠しながら笑った。



【END】