SS
想い溢れて
普段から物静かなお前だからあまり気にならないでいたけれど、最近のお前はどこか様子が変だと思う。
前よりもっと喋らなくなったし、外にも出たがらなくなっている。
それに一番おかしいのは、俺から離れたがらないということ……。
普段なら、俺なんてほったらかしで寝てたり何かをしていたりするのに、ここ最近は俺にべったりだ。
それに関しては俺的にはすごく嬉しいことなんだけど、お前らしくなくて何だか違和感がある──。
「何か嫌なことでもあったか?」
「別に……」
俺が何かを聞いても、いつもこんな調子。
「……お前さ、いい加減にしてくれよ?『別に』だけじゃ分からないだろう?それとも、俺には何も話せないって言うのか?」
「違う!」
お前は俺の言葉に泣きそうな顔をして、否定の言葉を叫びながら俺を見た。
「じゃあ、どうして何も言ってくれないんだ?」
「だって……。重いって思われたら嫌だから……」
「俺がそんなことを思うとでも?」
俺がそう訊くと、お前は「わからないじゃん……」と小さく呟いて俺に背を向けた。
その背中はいつもより小さく頼りなさそうに見え、俺はなぜか切なくなるのを感じた。
俺をもっと頼って欲しい。俺をもっと信じて欲しい。
俺はそう思うと、お前の小さく見える背中を包み込むように抱きしめた。
「……俺ってそんなに信用ないかな?」
「違う」
お前は言うと、自分の首に回っている俺の腕に手を添え、
「大好きなんだ……。オレのこの気持ちは変わることがない。たぶん、こんなに好きで好きでたまらなくなるのはこれで最後だと思う。でもそれが、オレだけだったとしたら……」
そこまで言って言葉を切る。
表情は見えないから分からないが、声が震えているので、おそらくお前は泣いているんだろう。
俺はいつの間にか、こいつをこんなに不安にさせていたなんて……。それに気づいてやることができなかったなんて、俺は恋人失格なのかもな……。
「悪かった」
気づいてやれなくて、不安にさせてしまって、泣かせてしまってという気持ちを込めて言い、抱きしめている腕に力を込める。
「俺も大好きだ。こんなに誰かを好きになったのなんて、俺だって初めてだ。俺もお前と同じ想いだから、一人で気持ちを押さえ込んでいないで何でも俺に言え」
上手く自分の気持ちを伝えきれないけれど、これから徐々に伝えていきたいと思う。
俺たちはこれからも一緒。
その間に俺の想いすべてをお前に伝える。そして、お前の想いもすべて俺に伝えて欲しい。だから──。
「俺より先に死んだりするなよ?」
「……オレはアンタより若いから大丈…ぶ…だ……」
「おい?」
だんだんと消えていく声を不思議に思い顔を覗き込むと、お前は目を閉じて静かな寝息をたて始めていた。
「安心したら眠くなったってか?」
いつものお前らしいや。
俺は苦笑を浮かべると、涙で濡れている頬を優しく拭ってお前を布団へと移動させる。
「おやすみ……」
俺はそう呟くと、お前の髪を梳いていつもより穏やかな気持ちでお前の寝顔を見つめていた。
【END】
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