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耳を塞がずに聴け



「愛してるぜ」
「……いきなり何でしょうか?」
 俺の突然の発言に、淳一(じゅんいち)は眉を顰めて俺を見てきた。
「何って、愛の言葉じゃねぇか。この指通りのいい髪、程良く日焼けした肌、抱きしめがいのある均整のとれた躰、時々暴力を振るうけど優しい性格、素直じゃないけどたまにぽろっと本音を出しちまう可愛いところ。それに極めつけは、この挑んできているかのような強い瞳。俺はそれら全てをひっくるめてお前を愛しているんだ」
 淳一を引き寄せ腕に収めると、顎をとらえ上を向かせながら言う。
「よくそんな歯が浮くような台詞が言えるな……」
「照れてんのか?」
「……そんなわけあるか」
「でも、ここが赤いぜ?」
 俺の台詞を聞いたせいか、赤く染まっている頬に軽くキスをする。
「あ、赤いのはお前が……」
「俺が何?」
 言いかけてやめる淳一に、俺は先を促すように訊く。
「わ、分かってんだろう……」
「分からないから訊いてんだよ」
 俺が微笑みながら再度訊くと、淳一は、キッと俺を睨みつけて言う。
「……あんな歯が浮くような台詞をペラペラ言えるんだから、俺が何を言おうとしたのかくらい察しろ!」
「俺が近いから照れてんのか?」
「わ、分かってんじゃ──」
 そう言って淳一はハッと口を噤んだ。
 たまに素直なこんなところが俺の好きなところの一つ。自分の失言の後に真っ赤になるところも、またいい。
「いい加減慣れろよ?まあ、そんな初な反応も好きだけど」
「うっさい!」
「なら、うるさい口を塞げば?この唇で……」
 言いながら淳一の薄い唇を指でなぞる。
「……エロオヤジみたいなこと言ってんじゃねぇよ」
「それでも、ちゃんと言葉にしなきゃ伝わんねぇじゃん?」
「お前の場合は一言多いんだよ!」
 唇をなぞっている手を淳一は掴むと、俺を睨み上げてから唇を俺のそれに重ねてきた。
 触れるだけですぐに離れる淳一。
「……俺、そんなキスだけじゃ足りないんだけど」
「知るかっ。したいのなら自分からすればいいだろうっ」
「誘ってんの?」
「うっさい!違う!」
 そう言いつつも、淳一は俺が顔を近づけると瞼を閉じた。
 深い口づけ。何かを確かめるかのように、俺は淳一の唇を貪った。



【END】