SS
幼なじみ
いつからかな?いや、最初からかな。
何でも自分からやっていく俺とは違い、いつでもどこか一歩引いているようなお前のことを好きになったのは。
その感情に気づいたのは、なんと女子に告白をされた時。
『もし、好きな人がいなかったら、私と付き合ってください』
それを聞いて俺は、すぐに答えることができなかった。
俺に好きな女なんていないんだから、オーケーの返事をすればいいじゃないか。彼女は可愛いし、俺好みなんだから。
……でも待て。俺、好きな『女』はいなくても、好きな『男』がいる……。俺は、あいつが──。
そんなことを考えついた自分にハッとしたすぐに、彼女に、「ごめん」と謝っている自分がいた。そして、そのままあいつの元に走って行く自分が──。
告白するために急いでるわけじゃない。ただ、自分の気持ちを早く知りたかったから。
──俺はあいつが好きだ。
その気持ちが本当かどうかが知りたかった。
教室まで着き、俺を待っていてくれたあいつの姿を見た瞬間、大きく胸が高鳴った。
「あ、お帰り。何て返事したんだー?」
そんな風に茶化すように訊いてくる声を聞いて、胸の高鳴りが激しくなった。
──俺、やっぱりこいつが好きなんだ。
「断ったぜ。俺には、大好きな奴がいるって気づいたから」
「え──?」
俺がそう言った瞬間、気のせいかもしれないが、一瞬あいつの表情が曇ったように見えた。
「それって誰だ?オレの知っている奴か?」
だがすぐに再びからかうように言ってきたあいつに、俺はさっきのは何かの見間違えだったりのだろうと思った。
「教えねぇよ。秘密の方がなんかモエるだろ?」
「何だよそれ?」
「いーじゃん別に。早く帰ろうぜ、俺腹減った」
「はいはい」
荷物を持って先に教室を出ていく俺を見て、苦笑しながら立ち上がるあいつのどこか寂しそうな視線に気づかなかった俺は、相当鈍い奴だったと我ながら思う。
俺があいつの気持ちに気づくのは、まだまだ先のこと──。
【END】
Copyright(c) 2015 murano tanaka All rights reserved.