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強がりでもいい
「お前って実は、すごい寂しがり屋?」
オレが何気なく屋上で空を見上げていると、いつの間に隣に来ていたのか知らないが、クラスメイトの安田がオレに訊いてきた。
「……いきなり何言ってんだ、お前?」
「別に。ただそう思ったから」
「推測でくだらねえことを言ってんじゃねえよ!」
オレは安田に怒鳴ると、「どっか行け」とぶっきらぼうに言って目を瞑った。
……安田の言ったことは図星だったから──。
オレはこれまでずっと一人で過ごしてきた。
それはオレ自身が望んでしてきたことだから、寂しいとかそんなことを言えるもんじゃない。
それでもいつも、心の端では『寂しい』と呟いている自分が居たのにも気づいていた。
それを認めたくなくて、そんなことを思っていることを他人には知られたくなくて、今までずっと知らんぷりをしてきた。
それだというのに、なぜこいつは気づいた?なぜ──?
「図星だったろ?」
「…………」
訊いてくる安田を無視して、昼寝の体勢に入った。
こんな風に無視をしていれば、いつか飽きてどこかに行ってくれるだろう。そう思ったのだが……。
「…………。黙ってるってことは、図星だったんだな。そうか、お前は寂しがり屋だったんだ。いつも一人でいるから、てっきり一人でいるのが好きだと思ってたが、やっぱり違ったんだな?」
安田はしばらく黙っていた後、そんな風に訊ねるように喋りだした。
「いつも強がっているのは、寂しいって思っているのを隠すためか?」
……うるせぇな。お前に何が分かるってんだよ。
オレが答える気がないというのを分かっているくせに、安田はしつこく訊いてきた。
それにいい加減うんざりしてきた時、安田があり得ない発言をしてきた。
「寂しいんだったら、俺が側にいてやるよ」
「はあ!?」
「やっぱり聞いてた」
安田は驚いて飛び起きたオレを見て、何が楽しいのか笑みを浮かべてオレを見ていた。
その笑みは人を惹きつけるような、そんな魅力を感じさせるものだった。
「俺が側にいれば、お前もうは独りじゃなくなる」
「意味分かんねぇ。大きなお世話だ」
「強がらなくていいのに」
「うっせぇ。どっか行け」
オレはそう言って安田に蹴りを入れた。
「足癖が悪いね」
それでも安田は怒らずに、苦笑しながらオレの足を掴んだ。
「おい!離せ!」
「離したら、お前は行ってしまうだろ?」
「な、何言って……」
まるで捨てられた子犬のような…そんな可愛げのあるもんじゃないが、そんな目でオレを見てくる安田に、オレは口ごもってしまった。
何でそんな目でオレを見る?オレがいったい何をしたっていうんだ?
「俺がお前の側にいたいんだ。駄目なのか?」
駄目って……。ていうか、オレの側にいたいだなんて、どんな神経してやがんだよ。
「何とか言えよ」
「……偉そうに言うんじゃねえ」
「側にいさせてください。何とか言ってください」
オレが言うと、安田は掴んでいたオレの足を離し、丁寧な口調でオレの目を真っ直ぐ見ながら言ってきた。
何か、調子が狂っちまうぜ……。
「……何でだよ?意味分かんねえし」
「ここまで言ってるんだから気づけよ」
鈍感なんだなお前。と言うと安田は一言、
「好きだ」
凛とした声で聞き間違えようもない言葉を言ってきた。
すき?って、好き?ますます意味が分からねえ。
だいたい、鈍いとか言われたって、同性である安田がオレのことを好きだろうだなんて、普通は想像もしないだろ。
それで鈍いとか言われるのは心外だ。……って、そこは今どーでもいいだろっ。
「これで意味は分かっただろう?」
オレが心の中で一人ノリツッコミをしていると、安田がさっきのような笑みを浮かべて言ってきた。
「……意味が分かっても、今度は訳が分からねえっつの」
「訳なんてどうでもいいじゃないか。要は、俺はお前が好きだから側にいたいんだ。お前に寂しい思いをさせたくないから、側にいさせて欲しいんだ」
「……側にいて何がしたいってんだよ?」
ここは突っぱねなければいけないと思っているのに、オレはなぜか安田に訊ねていた。
初めて他人からこんな風に言われたせいか、だから気持ちが揺らいでしまっているのかもしれない。
そうじゃなかったら、こんなことを訊くなんてあり得ない……。
「だから、お前にもう寂しい思いはさせない。俺がずっと隣にいてお前を守る」
「何だよその言い方?プロポーズでもしてんのかよ?」
「そう捉えてもらってもいいよ」
オレの質問に、安田はにっこりと笑って答えた。
その顔を見て、なぜかオレは顔が熱くなってくるのを感じた。もしかしなくても、今のオレの顔は赤くなっているに違いない。
ここは、ふざけんなと言って怒鳴るとかしなければいけないっていうのに、何でオレは乙女みたいな反応してんだ?
「それで、どうかな?」
「……………好きにしろ」
なぜこんなことを言ってしまったのか、自分の発言に驚いた。
好きにしろってことは、こいつがオレの側にいることを認めるってことなんだぞ?
今まで一人で過ごしてきたのに、何で今さら誰かと一緒にいたいだなんて思うんだ?
……え?オレは、安田と一緒にいたい…のか──?
「……もう頭がぐちゃぐちゃだぜ……」
「大丈夫か?」
「お前のせいだよ!」
「それは嬉しいな」
「は?」
「俺のことで悩んでくれるなんて、ちゃんと俺がお前の中にいるってことだから」
「はあ?」
……安田の言ってることが理解できない……。オレがバカだからか?いや違う、バカなのは安田だ。
「ねえ、授業出ないでしばらく一緒にここにいよう?」
──一緒。
その単語が妙に心地よく心に響いてきた。
「……お前と一緒じゃなくても、オレははなっからそうするつもりだったっての」
「そう?」
ぶっきらぼうに言ってごろりと横になるオレの頭を撫でながら安田は言った。
その手が心地いいと感じるオレが、一番意味が分からなくて訳が分からない──。
【END】
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