SS
分かち合おう全て
「今日、何かあったのかな?」
「あ?何でだよ?」
僕の問いかけに、テレビを見ていた君は粗雑な声で返してきた。
別に、彼は怒っているわけではない。普段からどこか怒っているかのような態度なので、よく誤解されがちだ。
そのことを僕は知っているからこそ、彼が本当に怒っているのかどうかの違いが分かる。今日の彼は、少し怒っているらしい。
「おい、何とか言えよ」
黙って彼を見ていた僕に、彼は僕の目の前まできて訊いてきた。
僕よりも少し背の低い彼は、ほんの少しだけ上を見るようにして僕を見る。
「今日、機嫌が悪いようだからね」
「……何で」
僕が言うと、彼はばつが悪そうに小さく呟き、眉間の皺を深くすると、再びテレビの前へ戻っていった。
やはり君は、今日は少し怒っていたらしい。それを僕に悟られ、それが気に食わなかったのだろう。だから、あんなに皺を寄せたんだ。
思ったことが表情にでる彼が、少しだけ羨ましく思う。
僕はそんなことを思いながら、彼の隣にいく。
「何があったのかは、言ってくれないかな?」
「……別に大したことじゃねえ」
「それでも、教えてくれたら嬉しいな」
「何でだよ」
言う僕に、彼はチラリと僕を見て訊いてくる。
「それは、君のすべてを知りたいからかな」
「……お前は直球すぎんだよ」
僕の答えに、彼は僕を睨みながら言う。だが、その彼からは眉間の皺は消えていて、少しは機嫌が治ったように感じられた。
「君は、ちゃんと言葉に表さないと気づいてくれないだろう?」
「俺はそこまで鈍くねえよ」
彼は少し機嫌を損ねたように言うと、僕の肩にもたれ掛かるように頭を乗せた。
「今日は、しばらくこのままでいさせてくれ……」
彼は小さく言うと、そのままの姿勢で瞼を閉じた。そんな彼の肩に、僕は手を回す。
結局、彼がなぜ少し怒っていたのかという理由は分からなかったけれど、彼の気分が少しでも軽くなったようなので、それはよかったと思う。
今はまだすべては話してくれないけれど、いつかはすべて話してくれて、お互いの苦しみや喜びを分かち合えたらいいと思う。
その願いは、少し欲張りなのかな?
【END】
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