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変わらない二人



 あんたがいなくなって、俺は随分と成長をしたと思う。身長もあの頃より伸びたし、考え方も少し変わった。
 あの時は、あんたがいなくなるのがすごく嫌だったけれど、今はあんたと離れてみて良かったんじゃないかって思う。あんたのことを沢山考えさせられたし、自分のことも考えられたから。
 考えて出た答えは単純だったけれど、それを出すまでの過程に、大きな意味があるんだって俺は思う。
 俺はあんたが大好きだ。あんたといくら離れても、この気持ちは変わることはなかった。
 あんたは、どうなんだろう──。
「淳也(じゅんや)」
 よく聞き慣れた声に名前を呼ばれ、振り返る。後ろから見慣れた、久しぶりに見る姿が近づいてきていた。
 あんただ──。
「お帰り」
 近づいてくるあんたに、俺は少し表情を緩めて言う。
 二年ぶりに見るあんたは、髪が伸びているという以外、外見に前と変わったところを見受けられなかった。
「ただいま。……淳也っ!」
 あんたは俺の名前を叫ぶように呼ぶと、手にしていた荷物をその場に置き、俺に向かって走ってきた。そして、その勢いのまま俺に抱きついてきた。
「淳也!淳也!淳也っ!逢いたかった。逢いたかった!!」
 俺を強く抱きしめ、俺の肩口に頭を擦りながらあんたは言う。
 見た目も大して変わっていなかったが、中身もあまり変わってはいないらしい。
 あんたの行動を見て、俺は苦笑しながら思った。
 今まではこんな風に抱きつかれていたら即行突き飛ばしていたけれど、久しぶりの抱擁のためか、はたまた俺の心が広くなったのか、それをする気にはならなかった。
 だが、そうしなかったことを、後悔することになる。
「淳也、少し逢わないうちに背が伸びたね。それに、抱きついても怒らなくなった。僕は、嬉しいよ!」
 あんたはそう言うがいなや、俺から少し躰を離して俺を見つめてくると、俺の顎を掴んで上を向かせた。
「えっ!?ちょ、お──っ」
 俺が抗議の声をあげるよりも早く、あんたの唇が俺の唇を塞ぐ。
「んんっ!?」
 周りにちらほらと人がいるにも関わらず、キスをしてくるだなんて、あんたはいったい何を考えているんだ!?……いや、何も考えてはいないんだろうな。
「てめっ、何すんだよ!」
「スキンシップ。今までずっとキスできなくて、我慢の限界だったんだよ」
 まったく悪びれた様子もなくサラッと言うあんたに、俺は深いため息をついて頭を抱える。
 こいつは前からこういう奴だった。分かっている、分かってはいるんだが……。
「どうしたんだい、淳也?」
「あんた、ちっとは周りを見て行動しろよ」
 さっきの俺たちの行動を運悪く見てしまった人たちの視線が痛い。
 俺は周りを見る勇気もなく、顔を俯かせたままであんたに言う。
「周りの目なんて気にならないよ」
「俺が気にするんだよ」
「淳也の恥ずかしがり屋なところは変わらないね」
 なぜか嬉しそうに微笑みながら言うあんたに、俺は先ほどよりも深いため息をつく。
「淳也?」
 俯いた俺の顔を、あんたは心配そうに覗き込んでくる。
 お互い離れて変わった所も沢山あるんだと思う。けれど、やはり性格というものはそう簡単に変わることはないんだということが分かった。
 俺もずいぶん変わったと思っていたけれど、結局は前とほとんど変わってはいないらしい。
「はあ……。もうどうでもいいから、早く帰ろう」
「うん!早く帰って、今までのこと沢山話そうね!それに、沢山愛し合おうね……」
 そう言うと、懲りずにまたキスをしてきた。今度は頬にだったけれど。
「──っそういうことを、こんなとこでするなっつっただろうが!」
「だって、愛してるんだもん」
 本当に愛しそう微笑むあんたに、俺は言葉を詰まらせて黙ってしまう。
「……もう、帰るぞ」
 結局俺は、最後にはあんたを許してしまう。それは前から変わらないこと。そして、これからもそれは変わることはないと思う。
 だって俺は、あんたを──。



【END】