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届いた二つの手紙



 隣で君が笑っていてくれていただけで満足だった。
 何か特別に君に望みを言ったわけじゃない。
 俺のことを愛おしいと言ってくれた、それだけで俺は満足してしまっていた。
 ……そう、満足していたのは、俺だけだったんだ。
 君が俺に望んでいたのは、俺の想像よりもはるかに沢山のもので、それは俺には荷が重すぎた。そして、俺はそれに気づくことすらできなかった。
 今さら後悔しても遅い。それに気づいてやることのできなかった俺が、後悔なんてしちゃいけない。
 今日届いた、君の結婚を知らせる招待状。君の名前と、俺の知らない女性の名前。式の日付と場所を記されたそれ。
 何度ぐしゃぐしゃにして破いてやりたいと思いながらも、そんなことはできなくて何度も君の名前に目をやる。
 そしてもう一つ、数日前に届いた君からの直筆の手紙……。
 俺はその二つを並べ、どのくらいそれらを見つめていたことか。
 君の前からいなくなってしまったのは、俺だったのに。一番辛い思いをしたのは君だっただろうに。
 ……俺は何年も流したことのなかった涙を、一人静かに流し続けていた。
 これは、罰なのだろうか。君から逃げた、俺への罰?
 君の手紙で君の真実の気持ちを知り、そして、その君の結婚の現実を突きつけられる。
 ……どうして?なぜ、君は招待状に書いてある女性と結婚をするというのに、君は俺に今さら真実を伝えてきたんだ?
 俺にいったいどうすれと?君は、俺に何をして欲しいというんだ……?
 君の気持ちが分からず混乱をしながらも、俺の手は、なんの躊躇いもなしに『出席』に印を付けていた……。
 君と直接逢うのは、この日しかもうないと思いながら――。



【END】

20110426