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想いを捧げる



 アスファルトに反射する太陽の光が眩しい。日中ほとんど室内で過ごしている僕にとって、太陽の下を歩くということは結構きついものがあった。
 体力はあるほうだと思っていたのに、どうしてか、太陽の光を浴びると僕の体力は早く消耗されてしまう。
 それもこれも、一年近く、夜中以外に外出が許されていなかったせいなのであろう。
 僕は、久しぶりに見る生の太陽を、目の奥が痛くなることも厭わずに目を細めながら、見上げながら歩いていた。そして、考える。
 ――あの人は、僕をどうしたかったのだろう。
 彼と出会って、彼と過ごしていた一年間、ずっと僕の中で答えも出ないままくすぶり続けている疑問。
 もう、答えを出してくれる人は、僕の前にはいない、永遠の謎のままになってしまうのであろう疑問。
 強烈な光のせいか、目の奥が暑くなってくる。
 涙が、溢れてくる……。
「孝之(たかゆき)さん……」
 僕は、先ほどまでずっと一緒に過ごしてきた彼の名前を呟いた。
 涙と一緒に流れていく彼への気持ち。溢れる、なんと表現していいのか分からない、複雑すぎる大きな想い。
 彼は、僕のことを一度でも僕と同じように思ってくれていたことはあったのだろうか。最後に、それだけは知りたかった。それなのに、彼は、その答えを僕に与えてはくれなかった。
 まるで、僕に本当の気持ちを知られるのを恐れていたかのような彼の視線。
 もう今さら、どんな事実を知ったところで、僕が驚くことなんてないとういのに……。
 彼に監禁されていた一年のことを考えれば、どんな告白だって、僕は驚くことなんてないだろう。
 例えそれが、僕も彼も傷つくようなないようであったとしても……。
 僕は歩く。あてもなく、ただ、太陽の光の降り注ぐ道を。彼の、いない道を。僕は、これからは一人で。自由に……。
(本当は、開放してくれなくてもよかったなんて、孝之さんが知ったら、どう思ったかな?)
 答えなど決まりきっている疑問を浮かべながら、僕は歩いた。人通りのまったくない小路を、人々の賑わう声の聞こえる方向に向かって。彼の、いない世界に向かって。
 人影がたくさん見えてきたところで、僕はゆっくりと、始めて自分の歩いてきた道を振り返る。
 当然僕の後ろに彼の姿などあるわけはない。それでも、もしかしてなんて、都合のいい想いを抱いてしまうのは、ただの僕の汚い願望。
 本当は、本当は僕は、彼を……。
「愛してる……」
 どんな形であろうと、僕の思いは変わることはない。
 ずっと、ずっと。もう逢えないと分かっているけれど、僕は彼を愛し続ける。
 前に向き直り、足を踏み出す。
 もう後ろは振り返らない。彼への想いを心の中から失くすことはしないけれど、後ろを振り返ることはしないと決めた。
 僕は一人で生きていく。彼以外を愛することなんて、もう僕にはできない。
 愛を教えてくれた人に、僕は愛を捧げる――。



【END】

20120519